JVCケンウッドGY-HM850〜HDメモリーカードカメラレコーダー


 20年前は「肩乗せカメラ」が業務用ビデオカメラの象徴だったが、現在ではテクノロジーの進化によって機能・画質が上がる一方でカメラヘッドはどんどん小さくなり、従来の「肩乗せカメラ」と、通称デジなどと呼ばれる「ハンドヘルドタイプ」の2極化で市場が分かれている。

 そのなかでも肩乗せカメラでありながら小型・軽量でスリムなボディが特徴でミディアムスタイルのJVCケンウッド製「GY-HM850」の存在感は大きい(写真1)。GY-HM850はシリーズ化されており2009年6月から発売された「GY-HM700」を筆頭に「GY-HM750」を経て今回発売の「GY-HM850」へとパワーアップしている。外観はシリーズでは大きい変更がないためではその違いにはいったいどこにあるのだろうか。気になるところである。

大きな変更点

 前モデルGY-HM750からGY-HM850の大きな変更点は、まず撮像素子がCCDからCMOSになり、交換可能な1/3マウントの業務用レンズはFUJINONの20倍レンズを採用することによりこの組み合わせでF11というかなり明るい感度を実現している(写真2)。

 収録コーデックは従来のファイナルカットプロのネイティブ対応のQuickTime「MOV」に加えて。今回よりニーズが多い「AVCHD」「H.264」コーデックの収録にも対応となった。AVCHDは60pフォーマット(28Mbps)に対応しており、60iフォーマット時のHQコーデックで24Mbps、EPで5Mbpsを選択できるので長時間収録のときは収録時間に応じてコーデックを変更できるのはありがたい。さらに高画質で収録したい場合はH.264のXHQモードで50Mbpsをはじめ、ネット環境でのスムースなやり取りが可能な低ビットレートのwebモード(PROXY)も搭載している。収録コーデックは前モデルよりも一気に増えた印象だ(図1)。

GY-HM850

図1 対応コーデックとファイルフォーマット(クリック/タップすることで拡大表示されます)

 さらにネットワーク環境も強化され本体USB2.0をインターフェイスにしてWi-Fi環境でライブストリーミングといった使用方法もできる(写真3)。

 出力系の端子はIEEE1394がなくなったため、別売りのS×Sメモリーカードレコーダーは装備できなくなってしまったが、かわりにHDMI出力が追加で搭載されている。音声はAUX入力でステレオミニ端子が搭載されているのでモードにもより条件はあるが最高で4ch収録が可能になっている。

変更点に関する検証

 まずは大きな変更点に挙げた順に検証してみる。
 今回、核になるイメージセンサーは1/3インチのCMOSではあるもののF11/2000lx時はかなりの高感度である。実際にイメージセンサーが同じ1/3型であるソニーPMW-160と比較してみたが、このことをさらに実感することになる。それぞれの開放値で収録した映像は以下のようであった(写真4〜5)。

 なお、GY-HM850のf2.6でPMW-160の開放値(f1.6)と同じ明るさである。PMW-160も明るいと思っていたカメラなので、それを凌ぐ高感度ということで非常に驚きであった。ただし気を付けたいのが、カメラ設定メニューの撮影モードを「標準」から「拡張」にして初めて高感度を得られることになることだ。ちなみに標準設定時はPMW-160と明るさはほぼ一緒だった。暗い環境での収録現場があった場合は是非ともおすすめしたいカメラである。

 次に前モデルGY-HM750のキヤノン製14倍レンズに対して、今回のGY-HM850は前記でもあるようにFUJINONの20倍レンズとなっている。このレンズもこのカメラの明るさに貢献しているうえ、20倍レンズの寄りと引きの映像において非常にキレがよい印象だ。今回の20倍レンズは35㎜換算で29〜580㎜とレンズ1本で広角から望遠までフォローしている(写真6動画1)。

動画1 当社屋上からNTT DOCOMO代々木タワーを撮影したもの

 引き続きPMW-160と並べてみたのだが、両者の引きは若干GY-HM850のほうがワイドであるが(写真7〜8)、当然狭い屋内などのシーンではこれ以上引きたいという場合もあるかと思う。ワイドコンバーションレンズまたは、ショートズームレンズなどのオプションの情報がないのでメーカーから出るのを期待したい。

 NDは従来の「OFF(素通し)・1/4・1/16」に加え、GY-HM850では「1/64」が追加された。明るい屋外や舞台の強い照明時に使えるのがありがたい。ゲインは0dB〜+36dBが搭載されており、マイナス方向は−6dB/−3dBがあるので組み合わせにより被写界深度を浅くしてボケ味を出すことにも配慮された設計となっている。

 前モデルはズームリングが機構式なのに対して、今回のFUJINONの20倍は電気式になっているため、クイックズームした場合、ついてくるのが遅く一泊あるのが残念ではあった。これを解消するにはオプションのデマンドを使用するなど工夫が必要であり、当社ではLibec製のZC-9EXの8ピンをレンズに挿してズームリモートをした。また本体にREMOTE2という2.5㎜のステレオミニがあったが、取り説に詳細がないので恐る恐るソニーRM-1BPを繋いで動かしてみたところ、難なく動いてしまった。ただし仕様上の問題だと思われるのだが、8ピンタイプのズームリモートのほうがREMOTE2の2.5㎜ズームリモコンよりもシーソーの強弱のパターンが多くスムーズに動いた。

 収録フォーマットが多種であるため、編集までのワークフローなどを撮影前に事前に確認する必要が出てくる。今回注目したいのがH.264の収録できる50Mbpsのフォーマットだ。50MbpsといえばPMW-160のMPEG HD422も50Mbpsであるため、どっちのコーデックの方が奇麗か非常に興味があるところである。今回は機材調達上の問題で、それぞれのカメラヘッドでの収録となりカメラの性能もかかわってくるため、一概に収録フォーマットの評価ということではないが(Webではネイティブデータを掲載できないこともあるため、参考程度に捉えていただきたい)、両者の比較はご覧のようにどちらとも遜色ないものとなっている(動画2〜3)。

動画2 H.264 50Mbpsで撮影した鶴巻町交差点

動画3 MPEG HD422 50Mbpsで撮影した鶴巻町交差点

 H.264コーデックはブロックノイズのほとんどない高精細感と質感に優れて、なにより動きの速い被写体も鮮明に記録する特徴を持つフォーマットなので、少しでも画質を上げたい場合に収録できるのはようになったのは大きなリニューアルといえるだろう。

そのほか、特徴的な機能

■入出力関連
 GY-HM850本体は、小型化を狙ったカメラではないので各入出力端子も豊富に搭載している。ビデオ系統は3G-SDI出力、HDMI出力、コンポジット出力が常に同時に出力可能となっている。ちなみにシステム周波数24pのSDI、HDMIの出力は60pまたは60iのプルダウン出力となるため、スイッチャーに信号取り込むなどの場合は注意が必要となる。また音声入力はキャノンXLRが2系統と、3.5㎜ステレオミニ端子でAUX入力が可能だ。AUX入力はRECレベルを調整するボリュームがなく、ゲインをメニューで切り替える方式になっているため、AUX音声を使用する場合は事前にテストしてから現場に出たほうがよさそうだ。

 その他システムとしては、TCのIN/OUT(BNC型)や外部DCが4ピン入力だったり、三脚の取り付けが一般的なソニーやパナソニックなどで使用される業務用ベースとなっているので業務用カメラシステムとの親和性があるのもありがたい(写真9)。

■記録メディア関連
 収録メディアスロットはデュアル仕様で、リレー方式の記録やデュアル記録が可能なほか、同一コーデックが収録できるバックアップ記録ではAスロットをRECのスタート/ストップを行いながらした状態で、Bスロットは裏でそのまま撮り続けることが可能だ。またそれぞれのコーデックを変更しての収録をするデュアル記録など用途に合わせてさまざまな記録形態を選択できる(写真10)。

■カメラ設定メニュー
 画質の調整項目(ペイント/ピクチャープロファイルのような設定)は、ディテール、マスターブラック、ブラックガンマ、ニー、ホワイトクリップ、ガンマ、ホワイトバランス、カラーマトリックス、カラーゲインと、他の放送用/業務用カメラ同様にある程度変更できるので、他のカメラと色や質感を合わせることも問題なさそうであった。

 ただし現場でよく行う処理として、一度ホワイトバランスをメモリーした後で色温度が基準カメラと違ってホワイトバランスを青方向または赤方向にシフト変更したい場合、当機種はホワイトバランスシフト機能がないため、メモリーされたホワイトを基準に調整することはできず、プリセットモードを使って100K刻みで任意のホワイトをつくっていくという作業をすることになるので、今後のメーカーの改良に期待したい。

実際にカメラマンに担いでもらったら

 筆者以外に、当社カメラマンにもGY-HM850を評価してもらった。当機は肩乗せスタイルなので安定感はあり、長時間担いでも疲れはないという感想あったものの、ショルダーパッドとヘッドホーンパッドとVFの位置がカメラマンの体格的な問題でマッチングせず、最適なポディションを探すことが難しかったという。VFは横にスライドできるものの前後方向のアジャスト機能があればきちんとフィットするだろう。またVFを覗いていて視線をずらしたタイミングなどで映像に実際には被写体にはないレインボー色がVF内に見えることがあり、これに慣れるまで少し時間がかかってしまった。

 メーカーに確認したところVFにLCOS(エルコス)素子を使用しており、特性上仕方がないとのことだった。また本体付属の液晶モニターももう少し解像度を上げていただければフォーカス時にカメラマンは助かるという感想があった。また当機のバックフォーカスを取る際の手順が、一般的な2/3インチレンズよりも大変で取り扱い説明書を読まないと絶対できないという感想もあった。

 このカメラでユニークなのが、11個のユーザーボタンの機能割り付けだ。通常は標準の動作がアサインされているが、ユーザーがフォーカスアシストやカラーバー、手振れON/OFFなどに変更することができる。ユーザーボタンがまとまって配置されているわけではなく、11ボタンは本体の色々なところに搭載されている。使用したい機能をカスタマイズできるので、その分撮影に集中することが可能であり、試用してもらったカメラマンにも好評だった(写真11)。

最後に

 当社収録業務でも、テープ収録よりメモリーカード収録が圧倒的に多くなっているなかで、JVCケンウッド製メモリーカメラレコーダーGY-HM850は画質・機能などをみても上位機種となり、今後の4Kなどを含めた次世代カメラのパイオニア的存在であることに期待したいと思う。

機材協力:東京オフラインセンター

  • 発売:2014年3月
  • 価格:オープン(市場推定価格:¥70万後半)
  • 問い合わせ先:JVCケンウッド ビジネス・ソリューション事業部 国内営業推進部 クリエーショングループ TEL 045-443-3063
  • URLhttp://www3.jvckenwood.com/pro/video/gy-hm850/index.html

About 菊池徹

株式会社 イルージョン所属。同社制作技術本部 技術管理部 部長

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