爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第1回


 初期型は3個全部がスタンダードマウントでした。長年使っていると、レバーの根元に隠れているバネが折れたり、復元力が弱くなりますから、交換する必要があります。このマウントバネのメンテナンスと、回転するターレット面が磨り減って無限遠が狂ってくるのが欠点といえば欠点ですが、そうなる前に整備するのがプロの仕事です。 マウントのフランジバック(バックフォーカス)は52mm(アリ35も同じ)で、長い部類に入ります。「アリマウント以外のレンズを装着できるアダプターは無いか?」とよく質問がありますが、アリ16STに関してはありません。

 

 マウントの中を覗くと、光路に対して斜め45度に取り付けられた、回転ミラーが見えます(写真11)。撮影レンズを通ってきた光を、全反射ミラーでフィルム面とファインダーに100%の光量を交互に送っています。回転ミラーはシャッターを兼ねていて、24コマでは48分の1秒のシャッタースピードです。ハーフミラーではありませんから、光量の損失はありません。ミラーのパーツはガラス製で一体整形されていて、この製造技術に対してアカデミー技術賞が送られています。アリ以前のカメラは、ファインダーは単なるファインダーで、1眼レフではなかったので、構図の決定には熟練を要しました。この点については他のカメラで説明します。

 後部を見ると、丸い回転計(タコメーター)が付いていて、24コマの目盛りは赤く強調されています(写真12)。その下に撮影された「フィート」を示すカウンターとコマ数カウンターが付いています(写真13)。この2つは側面のギアを押し込んで手動で0に合わせますが、忘れると残りのフィート数がわからなくなります(写真14)。アリ16STを扱う助手がよくやる失敗です。

  カメラを上から見ると、ツマミの付いた蓋があります(写真15)。引っ張って外すと、孔が開いています(写真16)。ここに400フィートマガジンを取り付けます。400フィートマガジンは重い上に、バランスが悪くなるので、爺はほとんど使いませんでした(写真17)。

 後から見ると、モーターがボディに刺さっています(写真18)。モーターを取り去った孔の中にゴムのカップリングがあります。ここにモーターシャフトの先端の球形部分がはまります。カップリングはゴム製なので、経年変化で痛んできますから、定期的に交換が必要です(写真19)。 モーターの左には、パワーコネクターがあります(写真20)。並行2ピンでアリ専用の形をしています。最近、専用純正コードやコネクター単体(日本製)の入手が非常に困難になって、アリ16STを放置する原因になっています。ルームに必要なコードは揃っていますが、根本的な解決として、現在販売されている汎用のコネクターに交換改造する処置を施したボディもあります(写真21)。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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