爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第2回


 レンズ

 アリ16STには、通常3本のプライムレンズを装着します。16〜17.5mm、25mm、50mm辺りが選ばれます。3本あれば、ほとんどの被写体は撮影できます。3本の他には、12〜120、10〜100mmのズーム(ズームレンズはズームショットを撮影する以外は使いませんでした)。10〜12.5mmのワイドレンズを足せば、豪華なセット構成でした(写真16)。

 レンズメーカーは、クック(COOKE)、シュナイダー(SCHNEIDER)、ツァイス(ZEISS)、アンジェニュー(ANGENIEUX)、キラー(KILAR)、アストロ(ASTRO)など、著名な会社が競ってアリスタンダードマウントレンズを製造していました。特殊なマクロレンズや望遠レンズなどは、写真用のレンズをアリマウントに改造することで対応していました(写真17)。ルームには、バヨネット、スタンダードを取り混ぜて、アリ16mm用(35mm用は16mmのボディに装着でき、16mm用は35mmボディに装着できません)のレンズが5.7mm超ワイドから600mm超望遠まで165本が使える状態にあります。

アリ16STを復活させる

 最近、16mmを撮影する需要が極端に少なくなり、アリ16STボディ本体価格は、ほとんど捨て値になっています。海外のオークションでは、500$も出せば入手できるでしょう。ただし、程度の良いレンズはボディ以上に高価ですから、慎重に検討してから落とすべきで、安いからといって飛びつくのは、かえって追加費用が高くつきます。

 実用に耐えるようにするためには「オーバーホール」が必要です。きちんとオーバーホールされた場合、ほとんど新品の能力を取り戻せるのがアリ16STの素晴しいところです。たとえば、ルームの紹介で三光映機株式会社(さんこうえいき)に依頼した場合、アマチュア向け料金は5万円(税別)です。この他に交換が必要な部品代(マウントバネ、モーターのゴムカップリングなど)がかかります。オーバーホールすると、ボディのフランジバックは正確に52mmに調整されます。そこで初めてレンズのグリス交換を含めたフランジバック調整をします。1本5千円以内で、3本あれば1万5千円程度です。オークションの出品ボディには、バッテリーもパワーコードも付属していないのが普通です。ラジコン用のニッケル水素8.4Vバッテリーが1本5千円程度、バッテリーチャージャーは1万円程度でしょう。コードプラグは、プラスチックモールドで1品製作することができます(写真18)。3Dプリンターも身近になっていますから、なんとかなりそうです。

 ボディ購入-オーバーホール、プライムレンズ3本購入-オーバーホール、バックフォーカス調整、プラグ、パワーコード購入製作、バッテリー、バッテリーチャージャー購入、という手順で、合計20万円も投資すれば、完璧なアリ16STが入手できるでしょう。1980年代、新品のアリ16STが100万円以上の価格(現在の価格では300万円以上の価値)だったことを思えば、安くなったものです。

 ルームのメンバーに必ず説明するのは「ルームに来て、完璧に整備されたアリ16STを体験してから、初めてオークションを見ろ」ということです。ところが「このアリを落としたんですが、使えますか?」と持って来るケースが大半で、結局、オーバーホールからやり直すことになります。フィルムカメラは骨董品ではなく実用品で、撮影できなければ所有する意味はありません。「借りて使うのは面倒だから、自分のカメラを持ちたい」という気持ちも判らないでもないですが、ルームの13台のアリ16STは、テスト撮影には無料で貸し出しますから、まず使ってみてから考えましょう。16mmフィルムで映画を撮影できるのが、年々困難になることは、需要が減少すれば止められません。制作できる環境がある今のうちに経験しておくことをお勧めします。

 完全に整備されたアリ16STは、オブジェとして抜群のオーラを放っています。ルームメンバーのN君は「最強のナンパ道具」と豪語するほどです。今や、20歳代の女性が気軽に「ライカ」を買い、銀塩の写真を撮影する時代でもあります。男子たる者、女子のライカに対抗するにはアリしかありません。

 次回は「ボレックス」(BOLEX)を予定しています。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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