Adobe シニアディレクター ビル・ロバーツ氏に聞く〜最新アップデート&テクノロジー情報


 Adobeは先般開催されたIBC2014とAdobe MAX2014において、映像関連技術の大幅なイノベーションを公開した。

 今回、同社のCreative Cloudビデオ製品マネジメント担当 シニアディレクターであるビル・ロバーツ氏の来日に合わせて、2つのイベントでアナウンスされたアップデートの要点や、同社の4KおよびUltra HDに対する取り組みについてお聞きする機会を得たので、以下にご紹介したい。

 

・IBC2014で発表されたアップデートのポイントを、あらためてお聞かせいただけますか

■タッチ操作を意識したインターフェースの採用
 IBCではユーザーインターフェースのアップデートについて、多くの発表が行われました。今回のアップデートに対して「ハイライトのカラーをブルーにしただけじゃないか?」とジョークをいうユーザーもいましたが、より鮮明な表示になったことに加えて、じつはHiDPIのタッチインターフェースに対応したことが大きなポイントです。これが、今後のタッチインターフェースに関するリリースに向けての出発点であるということです。
 これまでのインターフェースを見ていただくとわかりますが、非常に多くの情報が含まれていてアイコンが小さく、スクリーンタッチが難しかった。そこで、私の指でも充分に操作できるよう、タッチスクリーンで使用する場合には相性の良い大きさのインターフェースが採用されています。

■「検索ビン」によるメディアブラウジング機能
 Premiere Proでは、新しいメディアブラウジング機能として「検索ビン」が追加されています。Mac OSにスマートフォルダというのがありますが、これに近い機能がPremiere Proのプロジェクト内で使えます。
 検索ビンを作成するアイコンをクリックすると、真ん中にダイアログが現れ、ここにクリップ名やなどを入れて検索することができます。

 

 10月のアップデートでマルチプロジェクトにも対応し、過去に作業した複数のプロジェクトからも素材を持ってくることができるようになりました。たとえば1つの作品を作るために、前編、中編、後編とブロック分けで編集した場合、各パートからプロジェクトを読み込んで、素材やシーケンスのデータを再現することもできます。

■RAWフォーマットにおけるディベイヤーの高速化対応
 GoPro CineFormコーデックに対応し、アルファチャネルも扱えるようになりました。その他のコーデックに関してもRAW対応に取り組んでいて、10月のアップデートではAJAのRAWフォーマットにも対応しています。
 RAW対応で問題になるのは、GPUによるディベイヤーの高速化だと思います。これについては従来、CinemaDNGとRED RAWで可能でしたが、今回AJA RAWとPhantomCine、Canon RAWが追加されています。

■コンピュータの負荷を軽減する「トランスコード&コンソリデート」
 ドキュメンタリーの作業現場では、REDやGoPro、P2、XDCAMなど多くのフォーマットが混在します。そこで、トランスコードの機能で中間的なコーデックをつくり上げ、コンピュータの負荷を少なくすることができるようになりました。大きな解像度を扱う場合にはメリットになりますね。
 この機能の使い方はさまざまで、作業途中や作業後のアーカイブにはもちろん使えますし、データ引き渡しのときにも便利です。
 Premiere Proに特化すると以上が大きなアップデートですが、他の映像制作ツールについてもさまざまなアップデートが発表されています。

 

・つづいて、4KおよびUltra HDに対する御社の取り組みをお聞かせください

■Ultra HDのRec2020と現行のRec709への対応
 過去5年間ほど、4K対応に積極的に取り組んできました。その中でユーザー環境を調査してわかってきたのは、テレビのサイズが大きくなってもピクセルの密度はたいして変わらなくてもよいということです。私たちのアーキテクチャーでは常に解像度とフレームレートが独立していますが、とくにスポーツのようなアクション要素が高いものについては、ピクセルの密度よりフレームレートのほうが重要になります。そしてもっとユーザーが興味をもっているのが、ダイナミックレンジについてです。
 私たちは積極的にDolbyと協業していますが、日韓のテレビメーカーとDolbyの協業も進んでおり、12月くらいから出荷すると思われる広ダイナミックレンジのテレビに注目しています。ここでDolbyが使っている規格はH.264とH.265。色データはAdobeのXMPです。このXMPの中に入る色空間のコアとなっているスキーマはISO準拠によるものです。そして、Adobeのチーフサイエンティストであるラーズ・ボーグがSMPTEで規格策定にも携わっているUltra HDのRec2020と現行のRec709には、色空間やダイナミックレンジなどで違いが見られます。

 少なくとも今後10〜15年間はこの2つの色の規格が存在すると考えていますので、どちらを使っても正しい色が出なくてはならないと思っています。
 いま、「Deferred Color Transform」という言葉がトレンドとして出てきています。これは、色データであるXMPにテレビが対応していれば広ダイナミックレンジで表示し、そうでなければ別の形で表示される方法を指した言葉です。Adobeはこのように限定的なスタンダードと業界標準のスタンダードの両方に対応できるように常に取り組んでいます。

■より高解像度な映画でも活躍するAdobe製品
 映画でもUltra HDに関するトピックがあります。
 デヴィッド・フィンチャー監督の映画『ゴーン・ガール』が、12月12日から日本で公開されます。この作品の編集ではAdobe Premiere Pro CCを積極的に活用してくださっていて、Adobeはこの4年間一緒に作品に取り組んできました。

 この映画は撮影にRED Dragonを使用し、6Kでマスタリングされたハリウッド初の映画です。公開後、ハリウッドから好評を得ていることは私たちにとっても非常にエキサイティングなこと。またこの作品は、今回のアップデートに関する機能がいろいろと反映されているいい例でもあります。
 たとえば、編集されたカットの8割以上がAfter Effectsで処理されていますが、Adobe Premiere Proのタイムラインでコンポジションのまま再生するにはシステムの負荷が大きすぎます。そこで開発された機能が10月アップデートにも入っている「レンダリングして置き換え」です。この機能を使えばAfter EffectsコンポジションをGoPro CineFormなどのコーデックで動画ファイルに置き換えてスムーズに再生できるだけでなく、置き換え前のコンポジションに戻すこともできます。このように、Ultra HDの作業環境に関わる点で、実際にユーザーとやりとりしながら1つの機能が追加された例もあります。

 

・先日開催されたAdobe MAXでのリリース情報をお聞かせください

■新しいインタラクションのやり方を模索する「Project Animal」
 Adobe MAXでも映像制作ツールに関する大きなアナウンスがありました。
1つ目は、新しいインタラクションのやり方を模索する「Project Animal」と呼ばれるものです。これは人間とコンピュータのやりとりに関する新しいテクノロジーで、マイクロソフトの新製品「Surface Pro 3」を使ってデモを行いました。

 カメラで顔をトラッキングして、話している口の動きも再現します。これまでのアニメーションでは難しかったキャラクターの動きも付加できるようになりました。このキャラクターは「パペット」と呼んでいます。眉毛をオレンジにしてみたり、編集してセーブしたり、ほかのパペットを選ぶこともできます。

 頭の動きを追いかけてモーションを解釈し、息切れなども再現します(パラメータの設定により、パペットが息をしているように肩を上下)。また、複数のパペットを同時に動かすこともできます。

 これはあくまでもスタート地点のアナウンスですが、近い将来にはこれに関する機能をAfter Effectsに追加したいと思っています。

■スマートフォン向け編集アプリケーション「Premiere Clip」
 もう1つのアナウンスは、「Premiere Clip」というモバイルアプリです。現在、多くの方がスマートフォンで映像を扱っていますが、それに対してのアクションがなされていませんでした。そこで簡単な編集用のアプリが必要だという発想から生まれたのが、このPremiere Clipです。

 簡単なカット編集のほかに、フェードイン/フェードアウトやルックを変えることもできます。クリップを分けたり、重複してコピーすることも可能です。音楽は無償のものが付属しますが、もちろんご自身の音楽も活用できます。
 特にスプリットフレームとハイフレームレートの機能は、iPhoneで使用するには最高の組み合わせの1つですね。たとえば誰かが走っていて、ジャンプでスロモーションになり、着地したらまた走っていくようなイメージをつくることができます。
 また、Premiere Clipでは、Creative Cloudのフォルダに対して、作業を開始した時点から反映されて同期されます。

 フォルダの中のXMLファイルやメディアをPremiere Proへ読み込むには、プロジェクトパネルにドラッグ&ドロップします。編集作業をiPhoneやiPadで行って、Adobeの映像ホスティングシステムにアップしたり、YouTubeにアップもできます。シェアやツイートに添付ももちろんできますよ。

動画:ロバーツ氏がYouTubeにアップしている「Gates of India」

 

・今回、Adobe MAXでは、映像ツール以外にも合計で9つのアプリが発表されていますが、他のアプリとの連携はありますか?

 いずれ出てくると思いますよ。ツールとしては2つのカテゴリーに分かれるでしょう。
 1つはデスクトップを拡張してPremiere Proに反映させていくもの、もう1つはキャプチャーディバイスという考え方です。これはデスクトップの中で使われる素材をキャプチャーしていくということにフォーカスを当てています。拡張性のあるディバイスを今後より多く使っていくことで、可能性が広がっていくという考えです。
 現在、プロで活躍しているエディターやクリエイティブな活動をしている方は、生まれたときからビデオがあったという世代です。そういう方たちのニーズに応えるためには、どのようなディバイスであれクリエイティブな作業ができるようなツールを提供しなければなりません。
 プロの映像業界は技術の進化が早いし、広がりがあってエキサイティングです。それを他の分野に発展させていくことも重要だと感じています。

・本日はありがとうございました。


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