スマートフォン向け生放送に特化した公開スタジオ「AmebaFRESH!Studio」 〜月300本以上の番組を配信


 サイバーエージェントが運営するAmebaは、2015年7月18日、同社が展開する新しい動画サービスのリアル発信拠点として原宿駅竹下口に公開スタジオ「AmebaFRESH!Studio」をオープンした。

 同スタジオはサテライト放送が可能な2つの公開スタジオ(Aスタジオ/Bスタジオ)を擁し、記者会見やイベントが行える多目的スペース(Cスタジオ)をもつほか、個人配信が行える個室スタジオも16部屋用意されている。公開スタジオは1階に設置されており、一般の方も番組の模様をスタジオの外から観覧することができるユニークなつくりとなっている。

 
 「AmebaFRESH!Studio」のオープンに合わせて、動画サービスに関連する新しいアプリも発表されている。サービスの中心となるスマートフォン向け生放送アプリ「AmebaFRESH!」のほか、タレント特化型ライブアプリ「アメスタ」、一般ユーザーが簡単に生配信できるライブアプリ「Takusuta」、テレビ朝日と共同で提供する多チャンネル動画プラットフォーム「AmebaTV」を発表。「アメスタ」および「Takusuta」については、すでに提供が開始されており、そのほかのアプリも今冬リリースの予定である。

 現在「AmebaFRESH!Studio」では、個人配信も含めると月300本以上の番組を「アメスタ」から配信しており、今後もいままでの動画サービスにはない生放送を集約して、芸能人や文化人によるコンテンツはもちろん、視聴者がまだ見たことのないジャンルの生放送番組を幅広くサポートするとしている。

 本稿では「AmebaFRESH!Studio」について、株式会社アメスタの代表取締役でありスタジオの館長でもある谷口 逹彦 氏と、最高放送技術責任者/スタジオ技術責任者である藤崎 智 氏に、設立の経緯や機材選定のポイントなどを伺った。

 
— AmebaFRESH!Studio設立のきっかけと背景を教えていただけますでしょうか?

谷口氏:
 わたしたちサイバーエージェントグループは、スマートフォンの普及で拡大した動画のビジネスチャンスをつかむべく、動画サービスに新たな姿勢で取り組むことにしました。その中心となる生放送アプリの領域において、リアルな配信拠点として、そしてPR拠点としても象徴的な空間をつくろうということから、このスタジオが生まれました。

— AmebaFRESH!Studioでの実際の番組づくりはどのように行われているのですか?

谷口氏:
 メインスタジオ(Aスタジオ)を使う番組は、われわれが企画立案からキャスティング、制作まで、通常のテレビ局と同じように進めています。個室スタジオは、基本的にAmebaのオフィシャルブロガーや専門家・文化人の方であれば、申請いただければ利用可能です。

 たとえばAスタジオで番組を放送した後に、2階のCスタジオ(多目的ホール)で記者会見などをしてサイネージに同時配信し、最後に出演者の1人1人が個室スタジオから配信してファンとコミュニケーションする。そういったスタジオをフルに使うパッケージも用意していて、ありとあらゆる情報発信ができるよう設計されています。

藤崎氏:
 個室スタジオでは毎日5〜10本ほどの放送があります。1階のAスタジオで番組を放送した後に2階の個室スタジオに移って共演者と一緒に15分ほど楽屋トークをしたり、1人で1時間ほどの番組をつくってミュージックビデオをクロマキーで背景に流しながら踊ったりする方もいます。

 アイドリングさんが番組に出演されたときは、メンバーごとに応援しているファンが違うため、番組後はメンバーが個室スタジオに別れて配信をしていました。ファンは応援しているメンバーの配信にコメントすることで、さらに交流できるわけです。


— いろいろなことができそうですが、すでに放送されている番組の中でユニークなものはありますか?

藤崎氏:
 TOKYO FMやbayfmはISDNの専用線を敷いていまして、ラジオブースをそのまま見せるような生放送を行っています。これが意外と好評なんですよ。文化放送で深夜1時に放送されている声優さんのラジオ放送も、声優さんの顔を見たいというファンが多いため、月曜〜木曜にわたって「アメスタ」で放送しています。ラジオは関東のローカル放送ですが、「アメスタ」だと世界中で見られるのでものすごい視聴数を取っています。

— 導入した機材についてお聞かせください。選定はどんな方針のもと進められたのでしょうか?

藤崎氏:
 機材については、スタジオメンバーと協議をしたのですが、BS朝日にてテレビ朝日と一緒に制作する番組の収録も本スタジオで行うため、地上波での放送に耐えうるレベルで、かつ専門的な知識や技術がない人でも操作できる機材が理想でした。

谷口氏:
 この動画サービス業界を牽引していくためにも、導入する機材は見本にならなければ、という考えがあって、中長期で陳腐化しない機材構成を目指しました。スマートフォンやタブレットなど視聴用のディバイスが変わったことで、クリエイティブ表現の幅が一気に広がっているので、それに適した機材が良いという話になりました。

藤崎氏:
 Aスタジオのスイッチャーはクロマキーのバーチャルセットを使用するため、TriCaster 8000を導入しました。サイバーエージェントのアプリにはスマホゲームが多いので、ゲーム画面を背負って実況放送することも見込んでのことです。


 カメラについては品質はもちろんですが、窓外からスタジオが見られるため見栄えのよいものにしたいということでソニーのPXW-X160を導入しています。弊社が運営していた既存のスタジオのカメラは、タリーがなくて出演者の目線がこないのがネックだったので、タリーは重視しました。出演者のテンションも違います。ワイヤレスマイクも20波あるので、多くの出演者に付けることができ、喜ばれています。

 カメラは1〜5カメとしてPXW-X160が5台と、6カメとして卓上にキヤノンiVIS mini Xを設置。7カメは外の観覧者の方を映すために、天井にパナソニックのAW-HE70Hを設置して、サブからリモート操作しています。

 2階にあるCスタジオ(多目的スペース)の機材構成もまったく同じです。1階と2階で機材が変わってしまうと使い方の習得が難しくなりますので。

藤崎氏:
 Aスタジオの照明はケンコープロフェショナルイメージング(KPI)さんと一緒に吟味して選びました。平面パネルのCamlight SL-H7500Aを12台ベースライトにして全体の照度を確保し、出演者に立体感を出すためのキーライトとヘアライトとして、DEDOLIGHTのスポットライトDLED9.1-SE-D-DMXを10台使っています。


 それから、このAスタジオは窓側に背を向けて放送もできるのですが、そのときには普段背後にあるライトが正面に来ます。このライトは夜間に見えにくくなる窓外の観覧者の方を照らす役目もあるんです。手を振っているところなどをしっかり収めるのに役立っています。

谷口氏:
 手前味噌ですが、高品質な機材もさることながら、設備の整ったスタイリッシュなスタジオと原宿の一等地のサテライトということで、出演者の方々にもテンションを高めていただけているようです。

 また、窓外を考慮した機材選定という意味でインパクトがあるのが1階のBスタジオ。ここではキヤノンのiVIS mini Xが活躍しています。出演者と街を歩く人たちがガラスを介して近距離でコミュニケーションできるように、距離感を生んでしまわないような設計になっているんです。出演者からも「めちゃくちゃ近い!」と、驚きのリアクションを頂きます。

藤崎氏:
 ご存じのとおり、駅の目の前なので防音は重大なテーマでした。窓のガラスは二重構造になっていて間が真空状態になっているので、コンコンと叩いたくらいでは一切聞こえないし、電車の音も聞こえません。


— 特に気に入っている機材などありますか?

藤崎氏:
 WiFiを利用した特注のインカムは一押しです。本スタジオ内はすべてWiFi環境を用意しているのですが、そのWiFi 網の中であればどこでも繋がりますし、音もクリアーです。


 それからシステムインテグレートに関しては外注せず、機材のこだわりを実現するために選定から発注まで全部を私が目を通して担当しました。施工は業者さんにお任せしましたが、実はワイヤリングはすべて自分で行っています。7月15日に機材の引き渡しがあって、17日のプレオープン直前で大変でしたが、自分の求めた方法で希望した機材がそのまま導入されるわけですから、そのぶん安心して使えます。

谷口氏:
 ぎりぎりで組み立てて、プレオープンの最初の番組がラジオの公開生放送。しかもそのゲストが木村拓哉さんだったので緊張感がありました。翌日に主演映画「HIRO」が公開されるということで、われわれのスタジオオープンとのコラボから生まれたサプライズ出演でした。

— 番組づくりや機材選定、サプライズまでこだわりが見られますね。ほかにどんな特長があるのでしょうか

藤崎氏:
 日本一のスタジオをつくるつもりで設計しましたが、スマホに特化した放送局としては世界一だと思っています。マスタールームにあるサイネージへの送出システムもスマホに特化したつくりになっていて、送出のソース用にiPhoneが12台並んでいます。サイネージは番組がないときには自動でCMを流していますが、本番が始まると手動に切り替えて、どのiPhoneの画面を出すか選択したりパッチ盤でスタジオから上がってきた映像に切り替えるなど、ここですべてを制御しています。

 アプリで配信している映像をサイネージに流してるので一見すると異様な感じですが、iPhoneを活用することで、視聴者がリアルタイムにサイネージ上で自分のコメントをチェックすることができるので、楽しんでいただいています。

谷口氏:
 機材面ではないですが、スタジオのクリエイティブディレクションは、弊社の総合クリエイティブ・ディレクターであるNIGO(ニゴー)さんに監修をお願いして、ワンダーウォールの建築家である片山 正通 氏とのタッグでつくっていただきました。


 「Ameba」の新しいキャラクターである「Abema(アベマ)」をモチーフにしたこんなアイテムをつくろうとか「中に入った瞬間、原宿の喧噪を忘れるようなスペーシーな空間にしよう」など、NIGO さんのアイディアが詰まっています。床の色ひとつとっても、アットホームな温かいスタジオをつくりたいという想いで厳選しました。

 こうしてでき上がった本スタジオ独特のデザインや雰囲気は、「AmebaFRESH!Studio」だから実現できたのではと自負しています。

— 本日は貴重なお話をありがとうございました

[本記事は取材時(2015年8月26日)時点の内容になります]


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