オタク 手塚一佳の自腹レポート〜EOS-1D Cを小規模撮影で使いこなす・第6回


撮影編 その4

フォーカスをアシストするUSBリモコン

 4K最大の問題点がフォーカスの難しさだということは前回お伝えしたとおりだ。そのため、筆者はCineroid EVF4RVW Retina EFVでのフォーカスに加え、ARRIのフォローフォーカスやVARAVONの簡易フォローフォーカスを用いてフォーカス操作をしているが、ワンマン撮影の場合には、やはり片手をフォローフォーカスに取られるのはしんどい。

 また、筆者はフルHD切り出し目的の4K撮影の場合、ミニ三脚を付けた一脚を使った簡易的な撮影をすることが多く、そういう場合には左手はぐらつきを押さえるためにカメラをしっかりとホールドしていて、当然右手はパン棒を握っているため、フォローフォーカスに回す分の手が足りない。

 そこで出てくるのが、このManfrotto「SYMPLAクランプ式リモコン(キヤノンHDSLR用)MVR911ECCN」(以下SYMPLAリモコン)だ。

 キヤノン製の電子制御スチルレンズが付いているEOS-1D Cでは、このSYMPLAリモコンを使うことで、手持ちの雲台を、EOS-1D C対応のリモコン三脚雲台に換えることができる。

 SYMPLAリモコンを使うと、フォーカス操作だけで無く、録画の開始停止、液晶モードへの切り替えの他、スチル撮影モードと動画殺名モードの切り替えなども出来る。パン棒を握りっぱなしでこうした操作をできるのは大変に便利だ。EOS-1D Cの少人数撮影の必需品といっていいだろう。筆者は、このSYMPLAリモコンを「キヤノンEF24-105mm F4L IS USM」などのズームレンズと組み合わせて、ビデオカメラ的な用途の場合に使うことが多い。

 SYMPLAリモコンでのフォーカスは、2種3段階で行うことができる。速度固定のFIXモードとスイッチの押し具合で速度を変えられるBARモードの2種類のモードで、それぞれ高速、中速、低速の3段階のフォーカス速度をコントロールできる。

 高速フォーカスは、これは緊急用という感じで、あまりに高速にフォーカスが動くうえ、フォーカスの電子制御の都合上ぎくしゃくしているので、撮影中にはあまり使うことはないだろう。あくまでも撮影準備用の機能だと考えられる。中速度でのフォーカスも若干ぎくしゃくするが、映像を見るとそこまでぎくしゃくは目立たない。高速にフォーカスをしたい場合には便利だろう。低速度でのフォーカスは、これは見事の一言。人力では不可能なじっくりとした確実なフォーカス運びで、本当に安心する。

 文章では伝わらないので、この3種類の速度でそれぞれ撮影をしてみた。Log撮影になっているので、LUTを当てるかグレーディングをして色を戻してみていたきたい(この辺のやり方はまた次回お伝えするので、やり方がわからない方は、それまでお待ちを)。

映像1 高速フォーカスの場合、かなりぎくしゃくする

 

映像2 中速度の場合、若干ぎくしゃくするが使えなくもない

 

映像3 低速度の場合、これは非常に美しい。人力ではできない正確なフォーカスの動きだ

  また、このSYMPLAリモコンでは、フォーカス範囲の設定もできるので、それを行えばフォーカス送りの際の失敗も無くなる。これなども、大変に便利な機材だといえる要因の1つだろう。

 ただしSYMPLAリモコンでは、USB端子がその規格上非常に脆いので、注意が必要だ(これはUSBという規格がPC規格であるためなのであって、Manfrottoやキヤノンが悪いわけではないのだが)。ケーブルコネクター自体の破損は簡単に起きるし、万一カメラ本体側を壊してしまったら、本体基板交換となり、大ごとだ。ケーブルを挿したままUSB側を下にして地面に置いただけで破損するので、普段は抜いておき、使うときだけケーブルを挿す癖を付けたい(EOS-1D C付属のケーブルプロテクターやクランパーもあるが、これを装着すると簡単に抜き差しできなくなるので、筆者の経験上では被害が拡大する傾向がある。それよりもこまめにケーブルを抜いたほうがいい)。

 また、新しいファームウェアでないとEOS-1D Cでは機能しないのでこの点も注意が必要だ。かならずマンフロット社ホームページから最新ファームウェアをダウンロードして、それを適用してから使いたい。

 何度も繰り返しているが、4K撮影最大の問題はフォーカスの難しさだ。こうしたフォーカスアシスト機器と高性能なEVFをつかって4K最大の問題であるフォーカスのトラブルを避ける必要がある。それは、ワンマン撮影でも変わらない。絞りを多めに絞ったところで、ごまかせる範囲には限度があるし、そもそもそれではせっかくの大判センサーならではのボケが活かせなくなってしまう。ボケを減らす方向性では無く、装備をしっかりとして、恐れることなく4Kならではのフォーカスに挑んでいきたいと筆者は考えている。

 さて、筆者は腕を鍛えるよりも、それが廉価に機械で補えるのであれば機械を買って済ませてしまえ、という考えの持ち主だ。結局プロフェッショナルワークは工夫の連続で、いかにして確実に早く安く目標の映像を得るかを常に考え続けることだ、と思っている。

 職人芸的な細かい操作の習得も確かに大切だが、そこにばかりこだわっていては作品を工夫する時間が減ってしまう。特に、少人数制作やワンマン制作では、作品そのものをつくるクリエイティブな部分になるべく労力を注ぎ、反復作業による各機械ごとの技術習得や直感の育成はできるだけ軽く済ませたいのが本音だ。また、そうした機械操作のためだけに人を雇うのは予算的には不可能だろう。弊社でも多くのスタッフに働いてもらっているが、彼らにはそうした機械を操作する単純労働ではなく、人間だからこそできるクリエイティブな部分に労力を割いてもらいたいのだ。

 機械で済ませられる部分は機械に任せてしまえるこのEOS-1D Cというカメラは、そういう点からも、小規模撮影に非常に向いているカメラだということができるだろう。

 次回は、いよいよ後処理編。とりあえず、LUTを使ってビデオ標準に戻し、そこからグレーディングする場合を追いかけたい。

[次回 後処理編 へ続く] アイキャッチ モデル:すずき えり


手塚 一佳

About 手塚 一佳

 1973年3月生まれ。クリエイター集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。東京農業大学農学部卒、日本大学大学院中退、小沢一郎政治塾8期卒、RYAショアベースヨットマスター、MENSA会員。学生時代からシナリオライター兼CG作家としてゲームやアニメ等でアルバイトを始め、1999年2月に仲間と共に法人化。アニメは育ってきたスタッフに任せ、企画・シナリオの他、映画エフェクトや合成などを主な業務としている。副業で鍛冶作刀修行中!

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