オタク 手塚一佳の自腹レポート〜EOS-1D Cを小規模撮影で使いこなす・第5回


撮影編 その3

  NDフィルターの選択

 EOS-1D Cは、軽量便利な一眼レフスタイルであるために、必然的にNDフィルター非内蔵型だ。

 フィルムカメラ時代にはNDフィルター内蔵シネマカメラというのは少なかったが、これは、フィルム交換によって感度を自在に変えられたためであり、まさかカメラのセンサーをシーンごと毎に交換するわけにいかない現代のデジタルシネマカメラにとっては、NDフィルターは必須のものになったといっていいだろう。

 しかし、EOS-1D Cの場合には。一眼レフスタイルであるためにスペース的にNDを内蔵するスペースもないだろうし、かといって映画のような大型のマットボックスをしっかりとしたRIGを組んで付けるというのはなかなかにやりにくい。大型RIGを組むのでは、そもそも「少人数、もしくはワンマンで」というこの短期連載の方針とも外れてしまう。 そこで、いくつか筆者が行っている撮影手段をご紹介したい。

 まず、真っ先に思いつくであろうスタイルが、最近流行りの可変フィルターを使ったやり方だ。可変NDフィルターは、PLフィルターを2枚重ねたフィルターで、その偏光を2回行うことで透過する光の量そのものを減らすという考え方のフィルターだ。

 ケンコー・トキナーの「バリアブルNDX」は、ND2.5〜ND1000相当までをカバーする色変化の少ない可変NDフィルターであり、筆者はこれを愛用している。こうした可変NDフィルターは、PLフィルター2枚重ねで物理的に減光しているため、紫外線や経年劣化による色素抜けなどの色の変化が無いのも優れた特徴だ。

 とりあえず、標準レンズのEF24-105mm F4L IS USMにこのバリアブルNDXを装着した映像を撮ってみたので、これを参考にしてほしい。Log撮影になっているため、各人でカラーグレーディングを行って色を戻してご覧になっていただきたい。思ったよりも奇麗に色成分が残っていることがわかるはずだ。ラストにわずかに光があるのは、フィルター脇の目盛り通りに操作をしてもほんのわずかな角度のさで大きな光の変化が出てしまうためだ。こうした正確性の無さも可変NDフィルターの特徴といえる。

映像1 ケンコー・トキナーの可変NDフィルター バリアブルNDX を使って、MINからMAXまで回してみたところ(Canon Log撮影なのでDeLogしてご覧下さい。DeLogのやり方の詳細は次回)

 

 一見万能に見えるこのバリアブルNDXだが、当然のことながらそんな完璧な機材はこの世には存在しない。

 まず、バリアブルNDXはレンズ直結というスタイルのため、レンズのフィルター径ごとに購入する必要がある。このバリアブルNDXフィルターは5万円以上とフィルターにしては非常に高額なので、この点が悩ましい。

 つぎに、フィルターの特性上、正確なNDの数値がわからない、という点も問題となる場面がある。1カメラ撮影のときにはそれでもいいが、マルチカメラ撮影の時にはこれは本当に困るし、1カメラでも翌日また同じ場所で撮影となればNDの再現性の問題が出てくる。可変NDはその性質上わずかな角度で急激に光量が変化するために、いくらメモや回転具合の写真を撮って置いたところで、他のカメラや別の人の撮影で同じND値を実現するのは至難の業だ。また、NDの変化もリニアなものではないため、変化が読みにくい、という問題もある。目が慣れてくると、うっかり暗すぎるということが多々あるし、ちょっとした振動や接触で大きく明るさが変わってしまうことも何度かあった。

 またなによりも、その性質が「PLフィルターを2枚重ねたもの」という仕組み自体が、撮影環境に合わないこともある。たとえば、ビルや乗り物の窓ガラスに偏光フィルムが貼ってある場合には、強烈なモアレを生むことになってしまって、このフィルターがそもそも使えないのである。

 もちろん、このバリアブルNDXは便利で綺麗な映像を得られるものなので、ものぐさな筆者はこれで済ませられるシーンは全部これで撮ってしまっているが、仕様上使えない場面があるという点はどうしようもない点なのだ。

 可変NDが使えないとなると、マットボックスに角フィルターを入れる他無い。いちいちねじ込み式のNDフィルターを光が変わる度にレンズ先端にねじ込むのは、スチルならともかく動画撮影では現実的では無いからだ(そもそもにどうやってもカメラが動き、構図が変わってしまう)。しかし、最近はこれらも便利な製品が増えてきている。

 たとえばマットボックス自体も、RIGを必要としない、レンズ先端にクリップオンできる軽量で簡易なものもある。また、逆光でないなら、フラップ板こそ付かないが、スチル用の簡易フィルターホルダも便利だ。逆光やレンズに光が入る場面の場合には余分な光線によってフレアやゴーストが出てしまうのでフラップ無しのものは使えないが、アセテートフィルターをそのまま差し込めるのもレンズ特性によっては便利に使える。

 フィルター自体も工夫1つで安く、またより良いものに換えられる。筆者的には、EOS-1D Cでは、映画関係者が好むガラスフィルターよりも、光学的に問題が出にくく、トラブルのときに捨てても惜しくないアセテートフィルターのほうがお勧めだ。実際、ガラスフィルターはその高額さゆえに、紫外線で色が変質している期限切れのものを後生大事に使っていることが多い。これでは意味が無い。それならば、数千円のアセテートフィルターをプロジェクトごとに買い直したほうが遥かにマシというものだ。また、前述のクリップオンタイプのマットボックスを使う場合にはレンズマウントへの負荷を減らしたいため、ガラスフィルターよりも遥かに軽量なアセレートフィルターは必須のものといえる。

 なお、似たようなものであっても、アセレート製ではなく本物のゼラチン製のフィルターは湿気に弱く耐久性も低いため、昔のカメラを宝石のように扱っていたフィルム時代ならともかく、機材をセットしっぱなしで1日を過ごすことの多い現代の動画撮影にはまったく向かない。特に屋外ではにわか雨や結露でもあれば撮影中にもあっという間に駄目になってしまう。そのため湿気に対する欠点のないアセテート製のフィルターがお勧めだ。この2種を一緒くたに「ゼラチンフィルター」と呼ぶことが多いが、現代の映像の世界で「ゼラチンフィルター」といったら、基本的にはアセテートフィルターのことを便宜上そう呼んでいると思ったほうがいい。

 アセテートフィルターは台紙に貼って使うが、これはマットボックスと共通化するために100mmサイズのものを筆者は使っている。また、レンズによっては台紙が蹴られることがあるため、予備に1枚づつ新品を携行して、それを台紙を使わずにそのままスチル用の簡易フィルターホルダーに差して使う場合もある。

 なお、アセテートフィルターはもともとスチル写真用のため、特にNDの場合には数字表記が動画系と異なっているので注意が必要だ。

 アセテートのND-0.3で動画系のND-2相当、ND-0.6でND-4相当、ND-0.9でND-8相当、ND-1.2でND-16相当、ND-2.0でND-100相当となる(http://fujifilm.jp/personal/filmandcamera/sheetfilter/nd.html)。

 スチル写真はコマ数に囚われない超スローシャッターが可能なため、ビデオ/映画の世界では信じられないくらいに真っ黒な低光量のフィルターが多用されている。うっかりビデオ系の数値のつもりで買って真っ暗闇の映像を撮ることのないよう、注意したい。

 なお、先にも書いたが、フィルターはしょせん消耗品だ。折れば線が入るし、ぶつかれば傷が付く。大事に使っていても日光の元で使ってれば数ヶ月で色素が変色する(色に敏感な人では数週間という人もいる)。高いものではないので予備を買い、交換をいつでもできるようにしておきたい。

 いずれにしても、こうしたフィルター類を上手に使って撮影することが、EOS-1D Cにおける4K撮影の1つの肝であることは間違いないだろう。

 間違っても、明るすぎるから絞ればいい、とか、ISOを下げればいい、という考えにならないようにしたい。絞りすぎればボケが減るうえに解像感がイマイチになるし、ISOは320以下にしてしまえばダイナミックレンジが減ってしまう。適正な絞りと適正なISOでの撮影をするためにも、NDフィルターの準備はしっかりと行いたいのだ。

[次回 撮影編 その4へ続く] アイキャッチ モデル:すずき えり

 


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