キヤノンXC10〜新開発の4Kシステムと新コーデックXF-AVCの採用で4K動画をカメラ本体記録
キヤノンは、これまでにEOS C500とEOS-1D Cという2機種の4K対応カメラを発売してきた。しかしこれらは、いずれもCINEMA EOS SYSTEMシリーズに属するもので、ワークフローまでトータル的に考えると、決して手軽とは言い難いカメラである。
今回ご紹介するXC10は、CINEMA EOS SYSTEMシリーズではないものの、4K(UHDのみ)対応やCanon Logを搭載した、従来のXFシリーズとも確実に異なるカメラだ。
小型軽量ボディに回転式グリップとティルト可能なタッチパネル式液晶モニター搭載
XC10のボディ形状は、これまでのキヤノンのビデオカメラとは異なっている(写真1)。XC10には静止画モードも備わっているが、基本的には業務用ビデオカメラである。しかしその形状と操作感は、スチルのデジタルカメラと似ている。
実際に手に取ってみると、その大きさは思ったよりも小さく、これなら日頃からカバンに入れて常に持ち歩いても、苦にならない大きさである。
グリップ上部には、シャッターボタンのようなRECボタンのほか、電源ボタン、モード選択ダイヤルなどが配置されている(写真2)。また、背面の液晶モニターは上下どちらにもティルトさせることが可能で、設定などを変えるときにはタッチパネルとして使用できるが、モニターを触りたくないという場合はグリップ部の十字キーを使ってもすべての操作が可能となっている(写真3)。
さらに着脱可能なファインダーユニットが付属しており、これを液晶モニターに取り付けることで、簡単にビューファインダーへと早変わりしてくれる(写真4、5) 。一見擬似的なものかと期待薄だったが、実際に覗いてみると、予想以上に自然に覗くことができ、好印象だった。
気になるのは、ダイレクトに設定を変えることのできるダイヤルが、カメラ本体に1つしか装備されていないことだ。
マニュアルで撮影する場合、レンズの絞り、シャッタースピード、感度や色温度といった項目が、即座に調整できるとうれしいのだが、XC10ではそれらのうちの1つをダイヤルに割り当て、残りはモニターに表示されるファンクションメニューから調整することになってしまう(写真6)。
これは、少々煩わしさを感じる点であり、できればダイヤルをもう1つは欲しいところだ。
バッテリーは、デジタル一眼レフでも使われているLP-E6Nをグリップ部に差し込んで使用する(写真7、8)。EOS C300などで採用されているバッテリーとは異なり、汎用性があってコンパクトで軽量だが、その分容量も少ない。
しかしXC10では、カメラ本体でバッテリーを充電することができるため、チャージャーが1つ増えたと考えると、それは利点であろう。
また従来のLP-E6については、メーカーとしては保障していないようだが、実際には使用可能である。しかしその場合は、電源投入時にモニターにアラートが表示され、本体での充電ができないなどの制限があるようだ。サードパーティ製のバッテリーでも同様だと思われるので、ご注意いただきたい。
4Kに対応した固定式光学10倍ズームレンズの性能
XC10は残念ながらレンズ交換式ではなく、8.9-89mmという10倍のズームレンズが搭載されている(写真9)。
センサーサイズが1インチであることから、最もワイドの8.9mmが35mmフルサイズに換算すると27mm相当ということで、もう少しワイドが欲しいと感じてしまった。
だがよく考えると、このズームレンズは当然ながら、きっちりと4K対応されたキヤノン製レンズだろうし、もし仮にEFマウントレンズを使用するとした場合には、1インチサイズセンサーでるため、ワイドがさらに難しくなることが予想される。さらに、4K対応されていないレンズも多数あることから、メーカーとして4Kを保証するレンズで固定式にしてしまうという選択は、ある意味正解だと思った。
ただ、正直よくわからないのが、このレンズは8.9-89mmの10倍ズームなのだが、ズームリングに刻まれているのは24-240mmという数値なのだ(写真10)。この数値は、静止画モードの4:3の時の数値で、16:9の動画モードでは若干画角が望遠側にシフトしてしまう。
動画をメインとしたカメラなのに、なぜそのような数値が表記せれているのか、謎である。
それはさておき、ズームの各ポイントでの解像感を見ていくことにしよう。ここでは、ズームリングに表記されている数値をもとに進めていく。
まずは最もワイドの24mm(写真11)、つぎに50mm(写真12)、135mm(写真13)、そして最も望遠となる240mm(写真14)である。
これらはいずれも、絞りをF5.6と固定して撮影したもので、高く伸びた茎や花で見比べていただきたいが、どの焦点距離においても、それらの見え方がほとんど変わらないことがわかるだろう。
このレンズは、ズームの位置によって絞りの開放値がF2.8〜F5.6へと変わってしまうのだが、4Kカメラとして重要なその解像力は、ほぼ常にキープできていると言ってよいだろう。
今後は、4Kに対応されたワイドコンバーターやテレコンバーターが出てくることを期待したい。ちなみにオートフォーカス機能は、EOS 70DやEOS C100などで好評のデュアルピクセルCMOS AFではなく、コントラストAFである。そのAFスピードは、お世辞にも早いとは言えないレベルで、少々残念だった。
多彩なプリセットが用意されているルック設定
ルックは、基本的にはファンクションメニューの左側に設定ボタンがあり、そこから5つのプリセットと、2つのユーザー設定を選択することができる。
そこで、プリセットの5つを撮り比べてみた。
まずはスタンダード(写真15)。
スタンダードと言われても、このXC10がどこのカテゴリーに含まれるカメラなのかが微妙なこともあってピンとこないのだが、おそらく従来のXFシリーズのルックということだろう。他のルックよりも、約1/3絞り程度絞ったところが、ノーマルの絞りとなるようだ。
つぎにEOS Std.(写真16)。
これは、EOS 5Dや7Dといったデジタル一眼レフのEOSムービーのスタンダードに近いルックということである。EOSムービーと組み合わせるときは、このルックが最も馴染むのだろう。
そしてWide DR(写真17)。
XC10の12ストップというラティテュードをできるだけ活かした、REC709ベースのルック。高輝度部の白飛びを抑え、かつ暗部の黒つぶれも低減させた、全体的に柔らかめルックだが、ある程度のコントラストもあり、グレーディングを必須としないルックだ。
さらにCinema EOS Std.(写真18)。
EOS C300などのCINEMA EOS SYSTEMシリーズの、スタンダードに近いルックということだろう。
最後はCanon Log(写真19)。
XC10の12ストップというラティテュードを存分に活かすことができるルックで、CINEMA EOS SYSTEM機ではお馴染みのルックである。グレーディングをすることにより、幅の広い画づくりが可能だ。
XC10はCINEMA EOS SYSTEMシリーズではないが、CINEMA EOS SYSTEM機のサブカメラとしてはもちろん、EOS C100やC300と同等の画づくりも可能かもしれない。
常用可能な感度設定とノイズについて
XC10のセンサーサイズは1インチだ。従来のXFシリーズのセンサーよりはかなり大きくなっているが、その分解像度も上がっている。XC10は、どれくらいの感度までが常用可能な感度設定なのだろうか。
まずはISO800(写真20)。
昨今のカメラはISO800を標準感度とするものが多く、XC10の標準感度はこのレポートを書いている時点では不明だが、常用してまったく問題のない感度である。
つぎにISO1600(写真21)。
一昔前のカメラであれば、少し厳しくなってくる感度だが、XC10ではまだまだ問題ないようだ。
さらに倍のISO3200に上げてみる(写真22)。
XC10は単にセンサーのSN比が向上しているだけでなく、ノイズ処理能力もとても向上しているらしく、ISO3200も常用感度と考えて問題ないように感じる。
そしてISO6400(写真23)。ここまで上げると、さすがに多少のノイズは感じるが、それでもまだ使用可能なレベルではないだろうか。
ところが、さらに倍のISO12800になると、かなり厳しいノイズレベルとなった(写真24)。
そしてXC10の最高感度であるISO20000ともなると、さすがに使えるケースは限られるだろう(写真25)。ただし、ISO20000という恐ろしいような高感度が、ここまでクリアーに撮れるというだけで、充分に驚きである。
ということで、まだまだサンプルが少ないものの、現段階ではISO6400もしくはISO8000あたりが、筆者としてはXC10の常用感度と考えておこうと思う。
新開発のXF-AVCコーデック
これまでのキヤノンの4K記録コーデックは、EOS C500はCinema RAW、EOS-1D CがMotion JPEGであった。
しかしXC10では、XF-AVCという新しいコーデックを開発し、採用した。
このXF-AVCというのは、H.264をベースとするコーデックで、XC10の4Kモードにおいては4:2:2/8ビットのイントラフレームで、ビットレートは最大で305Mbpsとなっている(写真26)。ファイル形式はMXFだ。
このクラスのカメラとしては高めのビットレートだが、業務用4Kカメラとしては少々物足りないビットレートでもある。しかし拡大してみても、圧縮が原因と感じるようなノイズは、ほとんど見られず、優秀なコーデックのように感じた。そのためか、XC10では長時間記録を可能とする、205Mbpsという少し低めのビットレートを選ぶこともできる(写真27)。
またHDモードにおいても、サンプリングは4Kモードと同じく4:2:2/8ビットだが、こちらはLong GOPとなっており、ビットレートは35Mbps(59.94pで50Mbps)だ(写真28)。
ところでキヤノンは、4Kのムービーファイルから静止画を切り出すという手法を、EOS-1D Cのころから提案していた。どうやらこの手法は、XC10でも通用するようだ。
というのもXC10では、先述のように4Kモード時のXF-AVCがイントラフレームとなっている。そのため4Kのムービーファイルから静止画を切り出す場合、ハイクォリティーな切り出しが可能なのだ(写真29)。4KモードにLong GOPを取り入れなかったのは、その辺の狙いからなのかもしれない。
そのほかの便利な機能
■NDフィルター
XC10には、1種類だけだがNDフィルターが内蔵されている。
濃度は0.9(3絞り分)なのだが、このNDを入れるためのボタンやツマミがカメラ本体には見当たらない。どうやら初期設定では、メニューから入れる仕組みとなっているようだ。カメラ本体に3つ用意されているアサインボタンにNDフィルターのON/OFFを割り当てることができるので活用したい。
■Slow & Fastモーション
4Kモードでは30FPSがコマ数の上限だが、XC10はHDモードに切り替えることで最大120FPSまでの可変速撮影が可能である。
まずカメラをHDモードにし、メニューの「Slow & Fastモーション」のページを開くと、写真30のような設定項目が現れる。写真のようにXC10の可変速撮影は、撮影コマ数を調整していくのではなく、撮影後の映像の動くスピードに合わせた設定となっているのだ。
つまり、「×1/2」というのが60FPSのことであり、「×1/4」というのが120FPSのことなのだ。ということは、逆に「×2」以上の整数の設定は、タイムラプスのような微速度撮影ということになる。
ちなみに、Slow & Fastモーション記録設定時はフレームレートが29.98pへ自動的に変更される。また「×1/4」は1280×720となってしまうので、ご注意いただきたい。
■スチルモード
XC10は基本的にはビデオカメラだが、スチルカメラとして利用することも可能だ。RECボタン横のスイッチをスチール側にスライドさせるだけで、スチルモードに切り替わる。
スチルモードでは、「4:3」「3:2」「16:9」という3種類のアスペクトを選ぶことができ、最も画像サイズの大きいものが「4:3」である(写真31)。
メニューを見ただけでお気付きの方もおられると思うが、この「4:3」が最も大きいだけでなく、同じ焦点距離で撮った場合に一番広角な画像を得ることができるのが、この「4:3」だ(写真32、33)。
レンズの項で触れた、ズームリングに表記されている焦点距離というのが、この「4:3」のときのものである。
■2種類の記録メディアを使い分け
このXC10には、2種類のメディアを挿入することができる(写真34、35)。しかしそれらは、いずれも用途が分かれているため、かならず撮影内容にあったメディアを入れておかなくてはならない。
1つは「CFast2.0」。4K撮影を行うときに必須となるメディアだ。このCFast2.0の高速性を利用することで、305Mbpsという高ビットレートの4K撮影を実現しているのだ。
そして、もう1つは「SDカード」。HDモード(およびスチルモード)で撮影した場合は、こちらに記録されるようになっている。
このようにXC10は、カメラのモードによって記録するメディアを変えるため、いろいろなモードが1つのメディアに混在することを避けることができるシステムとなっている。
ちなみに2種類のメディアが入るようなカメラの場合、最近では4KサイズとHDサイズという2つのサイズの画像を同時に記録できるカメラもあるようだが、このXC10ではその機能はもっていない。
XF-AVCコーデックの対応ソフトウェア
XC10は、単に新しいカメラというだけでなく、コーデックも新しく開発されたものである。それだけに、撮影後のファイルの扱い方について、不安を感じている方もいらっしゃることだろう。
すでに数多くのソフトウェアメーカーが対応を発表しいるが、このレポートを執筆している時点ですでに対応しているソフトウェアは、まだまだ少ない状況だ(2015年7月)。
そこで、いますぐ使えるソフトウェアを紹介したい。
まずは、キヤノン純正の「XF Utility」(写真36)。XF-AVCに対応したVer.2が、XC10の発売同時にリリースされた(2015年8月6日にVer.2.1が公開:http://cweb.canon.jp/e-support/software/)。
XF-AVCファイルのビューワーソフトとしてはもちろん、各種メタデータの確認や、静止画ファイルへの書き出しも可能だ。
つぎに、Blackmagicdesignの「DaVinci Resolve」。Ver.11.3で試したところ、XC10のXF-AVCを難なく読むことができ、グレーディングや書き出しも問題なく行えた(写真37)。そのため、早くも対応済みかと思ったのだが、タイムラインに並んだXF-AVCのクリップの詳細を表示させると、そこには「XAVC MPEG4」と表示されていたことから、この時点ではまだ完全対応ではなかったようである。
そのほかAdobeの「Premiere Pro CC」も、Ver.2015で対応されているなど、すでにXF-AVCを扱う方法はいくつもあるようだ。
総評
とてもコンパクトなボディながら、CINEMA EOS SYSTEMシリーズに近い映像表現ができるXC10は、新たな4Kカメラの1つとしてはもちろん、CINEMA EOS SYSTEM機のサブカメラとして使うこともできる。今後、周辺のアクセサリーや対応ソフトウェアが増えると、さらにもっと手軽に使えるようになるだろう。
さまざまなジャンルで、とても幅の広い運用が期待できるため、みなさんに一度触っていただきたいと思うカメラだ。
価格:オープン(市場価格;¥22万前後)
発売:2015年6月25日
問い合わせ先:キヤノンお客様相談センター TEL 050-555-90004
URL:http://cweb.canon.jp/prodv/lineup/xc10/index.html