ATOMOS NINJA STAR〜HDMI入出力対応ポケットサイズレコーダー


はじめに

 先日ライブの収録の合間でビデオエンジニア、VTRマンが何人が集まり『いま一番手頃なHDの収録機はなにか?』という話になった。そのなかで日本では2014年6月末に発売されたばかりのATOMOSの『NINJA STAR』が、他のビデオエンジニアより候補に上がり、一目置かれている収録機であることが分かった。

 ちょうどNINJA STARのデモ機を借りてレビューを書くために準備していた期間にこのような話があり、筆者としてはさらに興味が湧くこととなった。

実際に空けてみて

 筆者は以前、同じATOMOSの『NINJA BLADE』のレビューを執筆したことがあり、コンパクトで軽量と感想を書いたが、今回のNINJA STARはそれをさらに凌ぐコンパクトさで、携帯スマートフォーンを少しだけ厚くした筐体は、肌触りがよい素材でコーティングされている。メーカーの商品名にはポケットサイズレコーダーとあるが、まさにポケットに入るくらいの大きさのフルHD記録対応ローコスト収録レコーダー、それがNINJA STARである。

 レイアウトは、正面は操作部でボタンが4つの色分けされたボタンと機能別ステータスLED(オーディオレベルメーター、バッテリー残量、メディア残量時間)が配置されており、正面からみて左側にCFastカードスロット、右側にマイクロHDMIの入出力端子、ステレオミニのAUDIO入力端子の3つで、リアに付属の2600mAのバッテリーをマウントできる電源部が配置されており非常にシンプルな印象だ。写真を見て分かる通り従来「NINJA BLADE」などに搭載されていた液晶モニターは省略されている(写真1〜2)。

 付属品は三脚穴固定用チーズプレート、2600mAのバッテリー、バッテリー充電器、カーバッテリーコード。CFastカードリーダー、キャリングケースとなっていて、実際収録するためには各自でCFカードやマイクロHDMIケーブルを用意することになる(写真3)。

 「NINJA STAR」で収録できるメディアの種類はCFastカードのみとなる。CFastカードとは最近出てきたメディアの種類で、次世代フラッシュメモリーカードといわれており、転送レートが従来のCFカードの約2倍の転送速度で高速・大容量データの転送に適している。外観はCFカードと同じように見えるものの、コネクター形状が異なりお互いの互換性はないので注意が必要となる(写真4)。

 CFastカードは、オプションで各自用意することになるが、メーカー推奨はCFast1.0以上で書き込みスピードが80MB/sとなっており、ATOMOSより64Gバイトと128Gバイトのメーカー検証済みのCFastカードを購入することができる。市場にはまだまだCFastカードの種類が少ないうえ高価なので、現段階ではATOMOSより64Gバイトまたは128GバイトのCFastカードを購入したほうがよさそうだ。市場価格では64Gバイトで約1万8000円(税別)、128Gバイトで約2万7000円(税別)である。今回のテストはATOMOSのCFastカード64GBを使用して収録してみた。

 CFastカードは完全なマウント時で、カードの1/4程度が筐体から外に出ることになる。NINJA BLADEなどで採用していた2.5型のSSDから今回のNINJA STARでCFastカードになったのは、筐体をコンパクトで少しでも軽量にするためだと推測できる(写真5)。

 キヤノンEOS 5D MarkⅢやソニーHVR-Z5Jなどで、収録を1対1で行う場合にNINJA STARを固定する三脚穴固定用チーズプレートを使うわけだが、これが非常にユニークで本体の上面または下面のいずれにも取り付けることができる。チーズプレートはあらゆる面に1/4のネジ穴があるのでユーザーの好みによって自由自在にNINJA STARの位置・角度を決めることができる。水平面にはさらに3/8ネジもあり一般的なマイクスタンドなどの取付けもできる(写真6)。なお、NINJA STARは標準のバッテリーとCFastカードを装着しても約250gなので、マウントアームの耐久性や三脚のオペレーションに影響することはなかった。

 付属の2600mAのバッテリーは約5時間の使用が可能との記載がある。それ以上の長時間収録でバッテリーの容量に不安がある場合は、ソニーNP-F970などの大容量バッテリーにも互換性があるのがありがたい。ただし、今回の付属品の構成ではNINJA STARをAC駆動することはできないようだ。

実際に電源を入れてみて、収録してみる

 まずは「REC」ボタンを押してNINJA STARの電源を起動する。液晶画面などがあれば電源が入った感がすぐにわかるのだが、本機は本体が起動すると「REC」ボタンの右下のLEDおよびバッテリー残量インジゲーターが緑色に点灯することにより、電源が入ったと認識する形となる。その後、CFastカードの残量などの情報を読み取り、HDMI入力信号のステータスを確認して8秒程度でオペレーション状態となる。

 最初に『REC』『PLAY』ボタンを同時に3秒押してCFastカードのフォーマットをする必要があるが、フォーマットはあっという間に実行された。ただし「フォーマット成功」の表示もないので本当にフォーマットされたのか心配になることもあった。メディア残量でフォーマットの有無の確認を試みるも、メディア残量も1時間以上/45分/30分/15分/10分/5分のLED表示となってるため数分程度のレックチェックだとはやりすぐに分からない。実際に再生してみてデータが入ってないことを確認するしかなさそうである。

 収録コーデックの選択だが、NINJA STARはNINJA BLADE同様にFinal Cut Proでネイティブ編集可能なProRseとなっており、HQ/422/LTの3種類を『PLAY』ボタンの長押しでコーデック変更し選択する。各コーデックの収録時間の実測値は以下ようだった。

・HQ:40分、422:66分、LT:90分(ATOMO製CFast1.0 64Gバイト使用時)

 128Gバイトのメディアは今回テストできなかったが、計算上は容量が倍なので128GバイトではProRse LTコーデックで約3時間の収録が可能となる。

 入力信号はHDMIのMicro端子入力で、1080/59.94iを始め1080/23.98PsFフォーマト、480/59.94iのSDフォーマットまで数種類対応可能である(表1)。HDMIが無信号時はVIDEO入力ステータスのLOCKが赤く点灯して収録できない状態となり、信号が入力されて緑色で点灯して収録できる状態となる。あとは『REC』ボタンを押すと右下のLEDの緑点灯が赤点滅になり収録開始される。収録状態である確認はバッテリーマウントの上側にもステータスLEDがあり、ここも収録時のみ赤点滅する。

 収録中にHDMIの信号がなんらかの理由(ケーブルを抜いたりカメラ電源が落ちたりなど)で信号断になると収録も一度中断される。その後信号が復帰すると自動で収録再開される仕様になっている。

 また理解していないと収録フォーマットを間違える可能性があるので、ここだけは事前に取り説などを確認いただきたい項目として、プルダウン変換というものがある。

 今回使用したカメラはソニーHXR-NX5だったので、1080/24p駆動することができる。ただしHXR-NX5のHDMI出力は1080/59.94iにプルダウンされるため、NINJA STARのプルダウン変換機能を使用しない場合の収録フォーマットは当然1080/59.94iになる。この収録した素材を再生した場合のHDMI出力も同様1080/59.94iであった。

 しかし編集などでネイティブ素材で作業を行いたい場合、NINJA STARのプルダウン変換機能で『60i→24p』モードを選択することにより、カメラのHDMI出力の1080/59.94iプルダウンを3:2/2:3逆プルダウンすることで。NINJA STARへの収録フォーマットをネイティブ24pで収録することができる。この場合の収録した素材を再生した場合のHDMI出力も、ネイティブで出力することができた。

 プルダウン変換は、認識するのに時間が十数秒かかる場合があるので、現場に出る前に実際に使用するカメラでテストをすることをお勧めする。ちなみに『i→p』は29.97PsFをネイティブで収録する際に使用するモードとなる。

 また、カメラ駆動が1080/59.94iで、NINJA STARでも同じ1080/59.94iを収録したいのに、間違ってプルダウン変換が入ってしまうと、両機のフォーマットが異なっていても収録できてしまうためプログレッシブ感ある映像になってしまい、取り返しのつかないことになる場合もあるので、ここは細心の注意が必要だ。

再生をしてみた

 実際に収録した素材を確認する場合は、マイクロHDMI出力端子を介してHDMIモニターでプレビューすることとなる。一番最近に収録したファイルの先頭から再生される仕様になっており、ファイルが終わったら再度そのファイルの先頭からループ再生するようになっている。ファイルを飛び越えたい場合は、再生時に「Prev」で戻り、「Next」で次のファイルに移動する。再生中に「Play」を押すことにより一時停止となる。一時停止時に「Prev」でコマ戻り、「Next」でコマ送りとなる。

 実際に試してみて残念だったのが、HDMIに付加されたカメラマイクなどの音声情報は再生できるものの、NINJA STARの外部音声入力で入れた音声は再生ではHDMIから出力できなかったのでプレビュー時は注意が必要となる。調べて分かったのだがProRseをFinal Cut Proで展開してみたところ外部音声ライン入力はch3/ch4にはきちんと入っていて聴くことができた。ちなみに、PCへの取り込みは付属のCFastカードリーダーを使用する(写真7)。

 再生から録画モードに戻る際は「REC」を押すだけで収録スタンバイ状態に入り、もう一度「REC」を押すことで収録がスタートされる。気になるのは「REC」ボタンを2秒以上長押しすると、録画状態であっても録画待機状態でも容赦なく電源が切れてしまうことだ。緊張の現場は、録画ミスがないようについつい操作には力が入ってしまう。万が一、録画しようと「REC」ボタンを押したのに、長押ししすぎて電源が落ちてしまうことがあったらまさに悪夢である。NINJA STARは主な操作をボタンが4つで行う関係上、長押しや2個押しで機能が変わるので注意が必要だ。

最後に

 ATOMOSの製品は今年のNABでローコストの4K収録レコーダー「SHOGUN」が発表されるなど、今後の動向に、筆者の周りも常に注視している。冒頭で出てきたVTRマン・ビデオエンジニアトークにあるように、手頃なHDの収録機のニーズは非常に高くバックアップ用途やオフライン用途など使用方法はさまざまである。
 この機能はとてもいいけど、音声をエンベデットしなけらばならず、さらに追加機材を購入する必要があるものや、収録コーデックの後処理などでさまざまあり、「あと少しで完璧なんだけどね〜。惜しいね〜。」という製品が市場には多い。それらと比較するとNINJA STARは非常に完成度が高い製品といえる。

 また、このNINJA STAR、市場価格で3万5000円(税別)というから驚きである。筆者の知る限り、業務用レコーダーでこれだけロープライスの製品は聞いたことがない。

  • 発売:2014年6月
  • 価格:¥3万5000(税別/2014年6月現在)
  • 問い合わせ先:ATOMOSジャパン TEL 03-5422-9256
  • URLhttp://www.atomos.com

About 菊池徹

株式会社 イルージョン所属。同社制作技術本部 技術管理部 部長

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