爺の遺言〜「シネレンズ」シリーズテスト・第4回 : シュナイダー シネクセノン | ビデオ α

爺の遺言〜「シネレンズ」シリーズテスト・第4回 : シュナイダー シネクセノン


シュナイダーレンズの歴史

 シュナイダー クロイツナッハ(Schneider Kreuznach、以下、シュナイダー)は、1913年、ヨゼフ シュナイダー(Josef Schneider)によって、ドイツのバート クロイツナッハ(Bad Kreuznach)に創立されました(写真1)。同社は、写真用、映画用、映写用レンズを初め、光学レンズ全般を手掛ける総合レンズメーカーです。


 著名なレンズでは、ジンマー(Symmer)、クセノタール(Xenotar)、クセノン(Xenon)、アンギュロン(Angulon)、引き延ばし用のコンポノン(Componon)など、世界に冠たる製品を送り出しています。

 インターネットでHistory of Schneider lensを検索すると、膨大なレンズ群が紹介されていますので、ここではそれぞれの詳しい紹介は省きますが、アサヒカメラ誌でクセノタールをテストした記事中「困ったレンズができたものです」と、テスターが、その高性能に驚嘆していたのを覚えています。

 また、ライツ(Leitz)のライカのために、スーパーアンギュロン21mmのF4およびF3.4と、クセノン50mm F1.5を供給していました。それらの特殊な広角レンズや、明るいレンズは当時のライツでは製造が困難だったようです。
 これらのエピソードは、シュナイダーの高度な技術力を具体的に示しています。

第4回のはじめに

 第3回は、クック スピードパンクロ(Cooke Speed Panchro)シリーズでした。スピードパンクロは35mmスタンダード(22×16mm)をカバーします。そこで第4回目も35mmスタンダードをカバーする、シネクセノン(Cine-Xenon)シリーズを採り上げます(写真2)


 爺の所有する35mmスタンダード用のシネクセノンは、28mm、35mm(3本)、50mm(5本)、75mm(2本)、100mm(2本)の5種類のF2、計13本です。また、望遠レンズのテレクセナー(Tele-Xenar)360mm F5.5も35mm用なので、全部で14本を併せてテストします(写真3)。このほかに巨大なシネゴン(Cinegon)20mm F2も所有していましたが、余りに大きすぎて手放しました。


 爺の現役時代は、35mm用ではクック、シュナイダーの単焦点プライムレンズとアンジェニュー25〜250mmの10倍ズームが全盛を誇っていました(写真4)。爺はアリフレックス35 II Cに35mm、50mm、75mmの3本をターレットに装着し、アンジェニューズーム25〜250mmを組み合わせて撮影していました。シュナイダーの35mm以下の広角レンズを使った記憶はありません。


 当時のカメラマンは18mm、25mmがシリーズ化されたクックを選ぶことが多く、シュナイダーは一段低く見られていました。

 ツァイスがプライムレンズを揃えるのは、この2社より後で、爺の会社ではツァイスには、クックのシネバロタール(Cine Varotal)25〜250mmズームを組み合わせていました(写真5)。現在、同レンズのマウントはニコンに改造してあります。


 シネクセノンに話を戻しましょう。デジタル時代に、その評価はどうなるでしょう。スピードパンクロシリーズは経年変化で黄変することを報告しましたが、シネクセノンシリーズは長年使っているとレンズの色が変わるのでしょうか。また、ソニーNEX-7との相性はどんなものでしょうか(写真6)

製造番号と製造時期など

 爺は、新品のレンズをテストする場合も含めて、製造番号を明示しなければフェアなテストではないと考えています。特に古いレンズは個々の保存状態によって、色彩やフレアの量など性能が変化していることがほとんどですから、1本をテストしただけで、製造されたレンズ群全体の評価として適切かは判断できません。

 レンズの設計仕様は、同じレンズ名でも時とともに変わります。製造方法も改良とコストダウンのために変更されることが常識ですから「シリーズのレンズ群全体の評価を1本で決定するようなレポートは混乱を招くだけ」だと思います。

 少なくとも数本を比較しながら、そのレンズシリーズを俯瞰してご覧いただくと「なんとなくレンズ製造会社の傾向が見えてくる」ということがご理解いただけるでしょう。
 
 製造番号の間隔が開いているシネクセノン100mmを2本比較しただけでも、絞り羽根の枚数と絞った形が違うので、ボケが違うことが容易に想像できます(写真7、8)。また、50mmはほとんどが6枚の絞り羽根ですが、[No.9992590]だけは4枚羽根になっています(写真9)


 この事実からすると、製造番号が新しい6枚羽根の[No.11427155]はレンズ鏡胴を改造して、適当にナンバーを刻印し直したのではないか、と考えられます。他のメーカーのレンズシリーズでも、シングルヘリコイドからダブルヘリコイドに改造することや、写真用の望遠レンズをアリマウントに改造することは頻繁に行われていました。
 
 改造されたとする推定が正しいならば、つぎに新しいのは、35mm[No.10049054]です。28mmの[No.4917507]が一番古く、1957年製(推定)で58年前。35mmの[No.10049054]が一番新しいとすると、1967年製(推定)で48年前の製造です。360mm F5.5はクセノンではありませんが、製造番号で1985年製と推定できます。
 14本とも、およそ30年から半世紀に渡って使われてきたレンズ群ですが、カビや傷もなく、良い状態に保たれています。

 資料によれば、シネクセノンは6枚構成で、絞りを挟んだ前後のレンズが対称な「ダブルガウスタイプ」です。ツァイスのプラナーや日本の大口径標準レンズに採用されている構成で、収差を良好に補正できるため、各社のガウスタイプは驚くほどレンズの配置が似ています。

 ちなみにシネゴンはワイドレンズに採用されたレトロフォーカスタイプで(写真10)、クセナーは4枚構成のテッサータイプです(写真11)


 一般的なマルチコーティングはグリーンの反射が見えますが、クセノンのコーティングはブルーとアンバーの反射が両方見えます。シュナイダーの独特のコーティングなのでしょうか。
 レンズマウントはすべてアリフレックススタンダードマウントで、ピントリングにはカメラマン自身がフォーカスを送るミッキーマウスのようなレバーが付いています(写真12)


 重さ2kgを超えるPLマウントレンズに比べると、100mmを除いて、1本200g程度と極めて小型軽量で、5本持ってロケに出ても苦になりませんから、小型のミラーレスカメラと組み合わせるには格好のレンズです。
 シネクセノンは16mm用も35mm用も名称の区別はありません。16mm F2と25mm F1.4がありますが、16mm専用です(写真13)

テスト撮影

 建物の壁の黄色、交通標識の赤と青、遠くの木々の緑、シャドウの落ち方、細い電線の解像感などを比較して見てください。感度ISO100、絞りは全レンズF5.6、ホワイトバランスは晴れです。撮影した2015年9月5日(土曜)は、晴れたり曇ったりの安定しない天気でしたので、絞りはF5.6に固定し、シャッタースピードを少々調整して、カメラの適正絞り表示から1/3絞り絞っています(写真14〜28)
 詳しいテスト条件は、第1回目に掲載したテストの前提条件をご参照ください。

 絞り羽根の枚数を書いていないレンズは6枚羽根です。枚数が少なくても、羽根のエッジは直線ではなく、丸みを帯びていて円形に近く絞ることができますが、さすがに4枚羽根では四角にしか絞れません。

 また、ほとんどのクセノンは絞り切ることができますから、フェードイン、フェードアウトが絞りの操作で撮影できます。クリックストップは解除できますし、F値とT値、両方の指標が表示されています(写真29、30)
 レンズ名はXenon、Cine-Xenon、Arriflex-Cine-Xenonと刻印されていますが、どれもクセノンであることに変わりはありません。

シュナイダーの総括

 テスト画面はいかがでしょうか。
 ニッコールと比べても遜色ないどころか、どのレンズの青、赤、緑、黄を見ても、ほとんど色の偏りや濁りがありません。14枚の画面をスライドショーで観察しても、あきれるくらい差がありません。

 16mm Cマウントのクセノンシリーズテストでも「シュナイダーシリーズに個々のコメントは必要ない」と書きましたが、35mm用のシネクセノン、テレクセナーとレンズのタイプが変わっても、実にニュートラルで、同じ傾向であることがわかる結果になりました。数本を比較するのは贅沢なようですが、やろうと思えば、現代のレンズなら同じレンズを比較できますし、シリーズでテストすることも可能な環境にあります。1枚で勝負する静止画はともかく、動画を撮影するなら「惚れこんだレンズをシリーズで使う」ことをお勧めします。

 クックがいわば「デタラメ」な経年変化を示しているのに比べて、半世紀を経過しても非常(異常)に安定した性能を保っていることは称賛を超えて、アサヒカメラのテスターの感想のように驚嘆に値します。

 これらの安定したテスト結果が「面白味がない」と評価されるとしたら、シュナイダーの技術者は「これこそシュナイダーレンズ設計のポリシー」と反論するかもしれません。フランスやイギリスとは異なった、ドイツのレンズ製造技術の凄味を改めて実感したテストでした。

 となれば、つぎはツァイスです。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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