爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第10回


番外編:プロも使うかな?〜マウントアダプタ-

 

はじめに

 前回、「次回は16mmカメラの最終回、CP-16Rです」と予告しましたが、予定を変更し、番外編としてマウントアダプター関連の記事をお届けしたいと思います。CP-16Rにつきましては第11回でお届けいたします。

 最近、フランジバックの短いデジタル「ミラーレス一眼カメラ」の発達によって、世界のほとんどのメーカーのレンズが「マウントアダプター」を介して取り付けることができるようになり、撮影できるようになりました。この分野は、MUKカメラサービスの小菅宗信 社長がパイオニアとして、ビデオαでもおなじみです。爺は動画撮影を業としていますので、16mmや35mmフィルム動画を撮影する多くのレンズを所有しています。これらの、古くても優秀なレンズ群を再活用しようと、マウントアダプターとデジタル動画カメラの相性を試し始めたところ、いつの間にか数が増えてしまいました。プロの皆様も一度使ってみたらいかがでしょうか。

16mmフィルムカメラ用のアダプター

 1970〜80年代には、16mmフィルムカメラのネジ込み式のCマウント用に、現在のマウントアダプターとは別に、たくさんのアダプターが販売されていました。

 特に重宝したのは、アリ−Cマウントアダプターでした。爺はエクレールNPR、ボレックスにアリマウントのレンズを取り付けて使っていました(写真1〜6)。

 また、ニコン-Cアダプターでニッコールの望遠レンズ群をエクレールACLで自由に使っていました(写真7)。

 特殊なアダプターではハッセルブラッド-CをS.Sさんから寄贈していただきました(写真8)。

 これらのCマウントアダプターはミラーレスカメラに流用することができます(写真9)。

 

 マイクロ4/3マウントのカメラ

 爺は、マイクロ4/3(フォーサーズ)マウント(以下、M4/3)のパナソニックAG-AF105(動画専用)とGH-1(静止画、動画兼用)を所有しています。M4/3はフランジバックがおよそ20mmで、ほとんどのレンズがアダプターを介して装着できます。アリフレックススタンダード-M4/3、アリフレックスバヨネット-M4/3アダプターを主力に、アリフレックス16mm、35mm用のレンズを使っています(写真10)。

 この他に、C-M4/3、ニコン-M4/3(写真11)、ライカM-M4/3、ライカL-M4/3アダプターで(写真12)、手持ちのレンズを動画に使い、いわば「レンズ道楽」で遊んでいるわけです。

 

市販していないアダプターを製作

■ヘリコイドの付いたM4/3アダプター
 シネオカメラの深澤一男 社長から、COOKE KINETAL 37.5mm、50mm2本、合計3本を譲っていただきました。驚いたことに、この3本は輸入した状態で保管されていた、ヘリコイドを取り付ける以前のデッドストック(新品)でした(写真13〜14)。

  経年変化でガラスがわずかに黄色に着色しているほかは、ピカピカの状態です。当時は各社で使うカメラに合わせて、マウントとヘリコイドを注文して製作していました。とはいえ、アリマウントが一般的で、クックレンズで爺が知っているのは、アイモマウントとミッチェルマウントだけです。なんとかM4/3マウントへ組み込めないかと考えていたところ、小菅社長から、「42mmネジマウントのヘリコイドならあるよ」という耳よりな情報をいただき、さらに「ジャンクのM4/3マウント部品もある」というので早速、両方とも分けていただきました。

 となれば「三光映機」の天野光彦社長の出番です。2個の部品と37.5mmおよび50mmレンズ2本を持ち込んでしばらくすると、M4/3アダプターの設計図をつくる根拠を以下のように決めた、と説明がありました。ちなみにM4/3マウントのフランジバックはおよそ20mmで厳密な数字は公表されていません。

 「4/3(マイクロではないマウントもあります)マウントのフランジバックは38.67mm(1.522インチ)と公表されている。M4/3はその2分の1、19.335mmらしいのだが、カメラ本体やアダプターのメーカーが、約20mmと表記している。厳密にフランジバックを19.335mmで製作すると、無限遠でピントの合わないレンズがある恐れがあるので、フランジバックの設計寸法を、19.2mmにした」と設計値の論理的な説明がありました。

 気長に待つこと数ヶ月。「できた」と連絡があって、受け取って試写をしたところ、恐れ入りました(写真15〜16)。

 設計値通りで仕上がり、無限遠もまったく問題無し。ヘリコイドの繰り出し量が多いので、37.5mmも50mmもマクロレンズ並みにクローズアップ撮影ができます(写真17〜18)。色もピントの切れも素晴しく、新品のクックの凄さを再認識しました。

■アイモ-NEXマウントアダプター

 爺の手元に3台のアイモ(EYEMO、35mmフィルムカメラ)があります。No.848756は電動のスーパー35に改造し、ライカLマウントが付いています(写真19〜20)。

 No.L63664は、オリジナルのシングルマウントです(写真21)。

 No.02273は3本のレンズが装着できるスパイダーマウントです。残念ながらスパイダーマウントの3本のうち、2本は割れて亀裂が入ったため不完全な修理がされていて、マウントを外して木槌で叩くと、簡単に取れてしまいました(写真22)。

 これらのアイモには、バルター35、50、75mm(写真23)とシネフジノン25、35、50、75mm(写真24)がセットになっていました。

 マウントアダプターを調べてみると、アイモマウントのレンズがそのまま使えるアダプターは存在しません。以前S.Tさんがアイモ-ライカMマウントアダプターを三光映機で特注したことがありましたが、ライカMマウントの内部がレンズ鏡胴に当たってしまい、レンズそのものを改造しなければなりませんでした。そこで、アイモマウントレンズを自由に使えるアダプターを、レンズのオリジナルマウントを改造せずに製作することにしました。まず、2個の割れたアイモマウントをヤスリで整形しました。この部品を持って、MUKカメラサービスへ行き、さまざまなマウントと合わせて検討した結果、ソニーNEXマウントが適合することがわかりました(写真25〜26)。

 そこでNEXマウントのジャンク部品を分けてもらい、三光映機へ持ち込みました(写真27〜28)。アダプターが完成して試写すると「バルター」は、何となく「テクニカラー」に似たセピアがかった渋い色になりましたし、「シネフジノン」は色調の整った、ピントの切れの良い、近代レンズでした。

 作業を待っている間に、宇井事務所代表の宇井忠幸氏が複数のアイモマウントのアナモレンズを所有していることを思い出しました。電話で話を聞くと、キヤノン50、85mmのマスターレンズに、ナック製のアナモブロックを取り付けた2本があることがわかりました。デジタルカメラで純正のシネスコが撮影できたら、興味がさらに広がります。

 宇井さんからレンズを借用し、アナモの傾きをマウントの基部を回転させて調整できるように仕上げたアダプターを小菅社長のソニーα7に取り付けて試写してみると、マスターレンズの50mmの内部が白く汚れていてフレアがかかるものの、きちんとシネスコの画面が撮影できました。85mmは問題なくクリアです。この2本のレンズをクリーニングして復活させるのを思案中です。

■ミッチェルマウント-NEXマウントアダプター
 宇井さんの所有するレンズには、ミッチェルマウントのレンズシリーズもありました。

 ミッチェルマウントレンズは、カメラ本体のターレット板に、4本、ネジ止めして使うタイプで、気軽に交換できません(写真29)。また、レンズの焦点距離に対応して、専用のヘリコイドを使う必要があります(写真30)。

 「ミッチェルカメラ本体は廃棄したので、レンズをどのように改造してもよい」と許可をいただき、6本のレンズをお借りしてきました。

 3本はヘリコイドが無く、レンズに傷やカビがあったので除外。25、35、50mmのバルターが清掃すると良い状態に戻りました。早速、小菅社長から、NEXマウントのジャンク部品を分けていただきました(写真31)。

 天野社長に相談すると「マウントの基部を締め付けるアダプターで、指標を真上に調整できるようにする」と作業を開始。1ヶ月ほどで完成。「文句の付けようがない」できです(写真32)。

 これで、アイモマウントと合わせて、バルターの25、35、50、75mmがシリーズで使えるようになり、往年の画調がデジタルで甦りました。

 爺はNEXマウントのカメラを所有していないので、適当なカメラの購入を検討中です。

マウントアダプターを考える

 日本には、名作映画(動画)を撮影してきた名レンズが無数に眠っているのは間違いありません。これらのレンズを知らない、若い世代が体験できるようになりました。

 さすがに前述したアダプターなど、特殊なものは爺が製作した以外に見当たりませんので、1個から特注しなければなりませんが、インターネットで検索すると、マウントアダプターは無数に製造されていることがわかります。デジタルカメラが活況を呈している現在、動画、静止画を問わず死蔵されている銘レンズを復活させる道が開かれ、遺産を活用できる「良き時代」になっているようです。

 これらのアダプターを使って試写した名レンズの描写は、メーカーごとにシリーズで、この16mmカメラ連載の次にレポートしていければと思っています。ご期待ください。

 ※この記事は「映画テレビ技術」誌とコラボレーションして執筆しました。


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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