Voice of Live Streaming・第3回〜株式会社 Jストリーム


B to Bにおけるライブストリーミングのこれまでと これからの話


 JストリームはADSLが普及していなかった1997年に設立された、ライブストリーミングの業界では老舗と呼ばれている会社である。ベンチャー投資をしているトランス・コスモス株式会社が、アメリカのプログレッシブネットワークス(現リアルネットワークス)と縁があり、同社がWeb配信用の音声や映像フォーマットを日本で販売しようとしたことがきっかけで設立。株式会社NTTPCコミュニケーションズと国際電信電話株式会社(現KDDI)の出資を受け4社の合弁会社として誕生した。

 現在は動画配信以外にも、動画の企画・制作・運用から、動画を活用したWebサイト制作、システム開発まで幅広いソリューションを提供する同社だが、今回はライブストリーミングのパイオニアとしての歴史を振り返っていただくとともに、配信現場でのノウハウや今後の展望について語っていただいた。

 お話を伺ったのは、同社配信事業統括本部 ライブコミュニケーション推進部 シニアマネージャー 企画・サポートチーム 近藤信輝氏と管理本部 総務部 広報IR課長 常冨勇人氏である。話の中に登場する回線マネージメントについての見解や現場での徹底したシステムの二重化などは、動画配信サービスがいかにしてビジネスにおける信頼を築いてきたかの証明ともいえるだろう。

ストリーミングの普及が進んだきっかけ

・御社はストリーミングの業界で一日の長がありますが、設立当初はどんな業務を行っていたのでしょうか。

常冨氏:設立当初はライブ中継だけをする会社としてメンバーは5、6人でスタートしました。しかし、1997年ごろはまだ回線も整っていない時代でライブの仕事が潤沢にあるわけではありません。そこでオンデマンドビジネスや配信用のWeb制作などを始めて、あとは対応する機器をどんどん増やしていきました。

近藤氏:私は2001年に入社してから13年間、一貫してライブ中継を担当してその歴史を見てきました。世間的には弊社の設立から3年経った2000年くらいからReal PlayerやWindows Mediaの利用者が増えてきて、2005年にFlashVideoが登場。それからWebに組み込める映像が急速に増えて、ライブ中継の需要も高まった印象ですね。


・設立当初のライブ中継の本数はどのくらいでしたか?

近藤氏:インターネット中継は、Ustreamやニコニコ動画などが登場した現在では一般的になりましたが、2010年くらいまではB to Bでの活用は、ほとんど伸びていませんでした。1年間に、いまの仕事量の1か月分以下でしたから。
 企業の予算は広告費を最初に削減します。最後に予算が余って「じゃあインターネットのライブ中継やろうか」という具合でした。ですから、受注しても準備期間は長くて2週間。その分、短い時間の中でどれだけちゃんと準備できるかという点では鍛えられたと思います。
 マーケットとして市民権を得た現在では大きなライブの準備期間は長く、2か月や3か月前から、場合によっては半年くらい前から準備するものもあります。もちろん、あいかわらず直前のも多いですけれど…。


・Ustreamやニコニコ動画が流行り始めたころに、Jストリームさんも業績が伸びていったということですね。

近藤氏:それも一因としてあるということですね。実はそういった媒体が出てきてインターネットライブ中継の認知度が上がったのと同じくらいの時期に、弊社では学術系の仕事が伸びてきたこともターニングポイントだったと考えています。
 学術系は細かい文字をプレゼンテーションで見せるので、技術的にアナログハイビジョンで1024×768が入力できるようになり受注が増えたという背景も別にあったと見ているんです。その需要に早いうちにフォーカスできたことで、弊社は他社とは違った伸びしろを確保できました。


・それは興味深いですね。学術系とは具体的にどんな内容ですか。

近藤氏:たとえば製薬会社がホテルで開催していた講演会を、現在はインターネットでライブ中継しています。以前は会場に全国の先生方を集めていましたが、人数が限られるし地方の方は出席しづらい。ネットでやれば全国の先生に見てもらえるし、どこかに拠点を作ればそこで集合視聴もできます。弊社はサーバースペースをお貸しするのがメイン業務なので、お客様が限定配信できるクローズドな環境を求めていた点もマッチしていました。

B to Bでの信頼を勝ちとる徹底した現場管理体制

・つづいて実際の配信作業について伺っていきたいと思います。現場は何人で担当して、配信までをどう段取りしていますか。スタッフ構成も媒体やインフラなどの変化につれ変わってきたのでしょうか。

近藤氏:配信チームはエンジニアと現場を仕切るディレクターの2名体制が基本です。そのスタンスは昔から変わっていません。まずはディレクターが案件の状況を理解して、どういう配線でなにが必要か計画を立てます。それを落とし込んた仕様書をエンジニアが見て準備をします。

近藤氏:現在のライブ件数は少なく見積もっても年間800件くらい。一般的にライブの仕事は場所を固定して回数を重ねることが多いと思いますが、弊社の800件は毎回場所が変わります。そのため仕様書に回線や電源などの現場の状況を残すことで、同じお客様から再オーダーがあったときに混乱しないようにしています。
 そして、先ほど申しあげたとおり、弊社はクローズドなライブ中継が多い。回線もラストワンマイルで、どんなことが起きるかも踏まえて、確実に配信しなくてはなりません。そのため地方であっても回線は必ずメインとバックアップの2本用意しますし、エンコーダーとスイッチャーも2セット用意しています。これはなかなかハードルが高いことですが、現地で代替えがきかないものに関しては全部二重化しているのが現状です。


・スイッチャーまで二重化するというのは徹底していますね。ほかに現場で注意している点はありますか。

近藤氏:現場に入ってから撤収するまでのチェック項目をA3三枚くらいのシートに記録しています。IT業界やSI業界は記録を残して進行管理をする世界なので、映像とITという両方の流れをもっている弊社ならではの取り組みかもしれないですね。このシートを使う前まではライブ中継のすべてを把握した人を育てるのに、3、4年かかっていました。でもチェックシートを使い始めてからは1年ちょっとで確実な業務ができるようになります。
 このシートはお客様に見せるわけではないですが、全部記録として残しています。そして注意点が発生したら共有する。こういうことを徹底していかないと、B to Bでの信頼は勝ち得ないだろうと考えています。

ネットワークの接続性に信頼がおけるシステムを採用

・最近の配信事例を取りあげて、簡単に配信システムをお聞かせいただけますか。

近藤氏:最近では大きなイベントの一部として中継を行いました。エンコーダーは全部で8台並べて、映像入力はパナソニックのスイッチャーAW-HS50でスイッチングをしました。
 エンコード8本の内訳は、日本語と英語で配信するサイトが2種類。そのメインとバックアップで合計8本。実際には3帯域扱っているので、8×3=24種類のエンコードをしています。帯域を分けても下をフォローすることが多いのであまりPCの動作は重くはなりませんが、細かいコントロールが必要なためノートPCではなくデスクトップを使用しています。この帯域をマネージメントするという考え方は、一般の方がエンコードする場合とは異なる点でしょうね。配信作業の間はネットワークは数秒間切れてもいけない。接続性をとても大事にしていて、いま使っているネットワークがどうなっているのかを常に把握できるようにしています。


・さすがに規模が大きいですね。そのほか普段重宝している機材はありますか。

近藤氏:普段使用している機材ですごく重宝しているのがローランドのコンバーターVC-1-SCとスイッチャーV-40HDの組み合わせです。たとえばWebでの講演会でお話しする方が4人の場合、我々が好んで使っている機材は可搬型が多いのでPC 4入力を捌くのが大変なのですが、V-40HDでPC入力をスイッチングするだけで作業が楽になります。スタジオのスイッチャーに入れて背景合成やバーチャルセットに出すこともできますし、HDMIもRGBも組み合わせできて安定しているというのは、我々にとって重視しているポイントですね。
 また、ここ数年ローランドが出してくれたコンバーターは手を出しやすく、RGBやHDMI、DVIをSDIに変換する際の安心感が一気に高まったと思います。弊社ではエンコーダーにアナログの音声を使うので、オーディオのエンベデッドとデエンベデッドが1つの機材でできるVC-1-SHが出たときには嬉しかったですね。パナソニックのスイッチャーAW-HS50とレコーダーAG-HMR10Aを使う際にも、音声をエンベデッドするために利用しています。


・動画配信の第一線で活動されてきた貴重な話をありがとうございました。最後に今後の取り組みをお聞かせいただけますか。

近藤氏:インターネットライブ中継を街頭ビジョンで流す試みも行っています。ストリーミングの用途の広がりを考えると、自分たちでそれを狭めるようなことはしたくはないですね。ですので講演会や決算説明会のライブ中継をはじめ、常設エンコーダーで24時間365日配信するような案件まで振り幅を広く捉えています。最先端の配信技術を追いかけるだけでなく、今後もその幅広い中で常にいいものを提供していく方針です。

常冨氏:裾野の1つということでお客様がセルフで配信するときに、サーバーをお貸し出しして限定配信できるサービスもあります。ラインナップを網羅すれば可能性もどんどん広がっていきますので、今後も進化する映像の技術とリアルタイム性を活用して、お客様のためにどんなことができるのかを常に追い続けていきたいですね。

・本日はありがとうございました。


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六本企画

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