ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)第3回 その3: ファイルベースフォーマットの概要


ファイルベースフォーマットの扱い方1

〜ラッパーと圧縮を区別する

 前回まで映像制作に使用される映像ファイルについて一通り説明しましたが、これらを扱う上で大切なのが、圧縮方式とファイルラッパーという2つの概念です。

 映像データはファイルサイズが大きくなるため、圧縮されるのが一般的です。その方式にはいろいろあり、DV圧縮やモーションJPEG、MPEG2、MPEG4/AVCなどがよく知られているところです。

 一方でAVIやQTムービー(MOV)などのファイルフォーマットは、映像データを包み込むように存在するヘッダーやフッター、そしてデータの記述形式によって成り立っていて、ファイルラッパーと呼ばれ、圧縮形式とは別物になります。MPEG4ファイルなどと気軽にいってしまうことがありますが、MPEG4は圧縮の種類ですので、これだけだとMP4ファイルのことなのかMPEG4圧縮を施したAVIファイルのことなのか区別がつきません。同様にAVIファイルという情報しかないと、何のコーデックが使用されているのか判別できません。前述のDVCPRO圧縮はAVIファイルとして保存されていることがありますが、DVCPROコーデックをプラグインとして組み込んだPCのみで再生可能ですので、単にAVIファイルと指定するだけでは互換性の面で不十分なのです。

 テープではフォーマットと圧縮形式が1つに決まっているため、同じテープフォーマットを使うカメラやVTR間で、再生互換性が確保されてきました。しかしファイルベースになると外観(拡張子)だけでは中身(圧縮形式)がわからず、トラブルが生じやすい状況があります。編集でポストプロダクションを利用したり、ファイルベースで納品を行う場合には、ファイルの種類(拡張子)と圧縮形式の2点を取引先に伝え、互換性が確保できるかどうかをユーザー側がしっかりと管理しなくてはならないのです。

図1 ファイルラッパーと圧縮の関係

図1 ファイルラッパーと圧縮の関係

ファイルベースフォーマットの扱い方2

〜ルート直下を丸ごと移動する

 ファイルベースカメラでは、メディアに高価なフラッシュメモリーを使うものが多く、撮影後は素材データをHDDなどに移し変え、メディアは再利用しなくてはなりません。その際注意すべきなのが、ディレクトリ構造を壊さないようにデータを移動するということです。

 PC流に保存されたAVIファイルやMOVファイルは、基本的にはそれ単体で保存されるものですので、画像用のJPG(JPEG)ファイルのように任意のフォルダに移動すればよいのですが、AVCHDや外付けユニットによって記録されたHDV映像のデータは、再生リストなどのメタ情報が別ファイルとして所定のフォルダに保存されていますので、MTSなど映像の実体ファイルだけを移動しても他の情報が付いてこないばかりか、閲覧・編集ソフトによってはファイルが壊れていると認識しかねません。

 またメディアフォーマットによるファイルサイズ制限を考慮して、長時間のカットは1Gバイトや2Gバイトごとに分割されて保存されています。そのためこれらの実体ファイルを個別に取り出して編集ソフト上で順番に並べたとしても、ファイルの切れ目を通過するときにクリックノイズが発生する事例もあります。そのためディレクトリ構造をもつフォーマットは、基本的にルート直下のフォルダーやファイルをまとめて移動します。また、編集ソフトへのインポートは専用のブラウザー画面から「クリップ」として行い、ファイル単体としては読み込ませないのが基本です。これがビデオ流ファイルとPC流ファイルで取り扱い方が異なる事例の1つです。

ファイルベースフォーマットの扱い方3

〜異なるスケーリングを調整する

 もう一点、ビデオ流ファイルとPC流ファイルでは、量子化数値のスケーリングが異なります。量子化数値とは、明度や彩度に応じて決まる色値のことです。例えば8ビットフォーマットの輝度成分なら、2^8により10進法で0〜255まで256ステップの数値が存在します。PC流ビデオファイルのスケーリングではこの256段階のレンジをフルに使い、最暗部には0を、最明部には255を、50%の明度なら中間値の128を割り当てます。しかしビデオ流に設計された映像ファイルのスケーリングでは、ITU-R BT709規格に基づき、最暗部から最明部までが219段階となるのです。

 そのため再生ソフトによっては、ビデオ流のファイルは暗部が浮き、ややくすんで見える場合があります。編集ソフトへ読み込んだ際の状況は複雑で、PC流ファイルが正しく表示されてビデオ流ファイルがくすむ場合もあれば、ビデオ流ファイルは普通なのにPC流ファイルの暗部が潰れる場合もあります。またフォーマットを判別して自動的に最適の表示を行うもの、手動で表示の仕方を設定できるものなど千差万別となります。

 編集ソフトに読み込んだ状態が絶対に正しいと考えるのではなく、波形モニターなどを利用して正しく調整しなおす姿勢を持つことが必要です。

ファイルベースフォーマットの扱い方4

〜AVCHD映像のバージョンに注意する

 もう一点、AVCHDについての注意点を記しておきます。AVCHDは2011年にVer.2.0が制定され、28Mbps、60p記録に対応する製品が発売されるようになりましたが、それ以前に製造されたカメラは24Mbpsまでの対応しかしておらず、28Mbpsで記録されたファイルの再生には対応していません。もしVer.2.0で記録されたメディアを未対応のビデオカメラに挿入して再生したらどうなるのでしょうか?

 機種により現象は異なると思いますが、筆者の手持ちのカメラでは、再生ボタンを押した瞬間にフリーズし、電源のOFFも含めて一切の動作ができなくなりました。仕方がないのでバッテリーを強制的に外して電源の再投入を行ったところ、今度は以前にそのカメラで記録したメディアの中身すら閲覧できなくなってしまいました。壊れたのかと思って一度撮影モードにして数カット撮影し、再び再生モードに戻したところ、以前のカードの内容が表示され再生も可能になり、こと無きを得ましたが、もしもファームウェアが破壊されたらと思うとぞっとします。

 テープを使う機器なら、上位フォーマットで記録するメディアには専用の識別口が設けられており、下位機種では再生できないよう安全措置がとられていましたが、メディアを自由に選べるファイルベースになるということは、そういう部分もユーザーが自己責任で管理しなくてはならないことを意味しています。便利の裏側にはリスクも付いている、という認識を持つことが大切です。

業務用映像フォーマット

〜画質と信頼性が必要な現場で使用される

 最後に、業務用途専用につくられたフォーマットについて紹介しておきます。HDVやAVCHDはそれなりに高画質なフォーマットといえますが、放送用のスタンダードを考慮するとやや手薄な部分があります。そのためソニーは「XDCAM EX」、「XDCAM HD」、「XAVC」、「SR MASTER」という4種類の業務用フォーマットを、パナソニックは低画質から高画質までを選択できる「AVC ULTRA」ファミリーを開発しました。このうちXDCAM HDはブルーレイディスクをベースに開発した光ディスク(Professional Disc)に記録しますが、他のフォーマットはフラッシュメモリーを利用する専用のカードに記録します。

 AVCHDと比べると、記録容量に余裕をもたせ、画質劣化の原因となる無理な圧縮をしない点や、色信号のサンプリング数を増やしている点、量子化に10ビット以上のスペックをもたせるものがある点などが異なります。またこれらの余裕を生むためにデータの記録レートが50Mbpsを超え、なかには880Mbpsに達するものもあるため、複数枚のフラッシュメモリーを実装してストライピングで高速記録するように構成した、専用のメディアが使われるのです。

図3 より高画質を得るために、業務用フォーマットは圧縮率を下げ、データレートを大きく取っているのが特徴。諧調表現を豊かにする10ビット量子化や、垂直色解像度を高める4:2:2サンプリングなども行っている

図3 より高画質を得るために、業務用フォーマットは圧縮率を下げ、データレートを大きく取っているのが特徴。諧調表現を豊かにする10ビット量子化や、垂直色解像度を高める4:2:2サンプリングなども行っている

 記録メディアを歴史的に見ると、テープ、光ディスク、フラッシュメモリーへと進化してきており、XDCAM HDはやや仕様が古いように感じられるかもしれません。しかしアーカイブの側面から見ると、従来のテープと同程度の価格で購入でき、撮影素材をそのまま棚に保管できるメリットがあります。使い回しが前提のフラッシュメモリーは、素材を保管するために別のメディアに移す手間がかかり、コストアップにも繋がるため、XDCAM HDは報道用の次期スタンダードメディアとして採用例が増えています。

※本連載は、昨年まで「デジタル時代に学ぶ〜ビデオ技術の基礎」として当サイトに掲載されていた連載記事を改題し、再構成したものです

[ファイルベース時代に学ぶ ビデオ技術(基礎編)]連載リスト
第1回:映像が動いて見えるしくみ
第2回:映像・音声信号の種類と伝送 その1 その2 その3
第3回:ファイルベースフォーマットの概要 その1 その2 その3


About 水城田 志郎

 旧日本ビクター(現JVCケンウッド)にて、ハイビジョンVTRやデジタルVTRの開発に従事する。その後独立して映像制作を行う傍ら、テクニカルライターとして業界誌への執筆活動を行い、解りやすい技術解説には定評がある。一方でNHK放送研修センターや放送系専門学校などで後進の育成にも努める。

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