ローランドVR-50HD〜マルチフォーマットAVミクサー


 本稿は2013年9月20日発売の月刊ビデオα(2013年10月号)に掲載した記事を再編集したものです。内容に掲載当時の情報が含まれていますので、あらかじめ御了承ください。

  ローランドはHDからSD、RGB映像までのマルチフォーマット映像入出力に対応したAVミクサー VR-50HDを発表した(写真1)。ここではその製品開発の背景や機能の詳細を解説したい。

開発意図とターゲットユーザー

 近年、インターネットによるライブ配信が完全に定着している。企業やイベントのプロモーションのみならず放送局まで、ライブ配信を使った取り組みが広がっている。

 ローランドは2011年に発売したAVミクサーVR-5を皮切りに、この市場に取り組んできた。当初はSD配信でも充分といわれていたライブ配信だが、現在はスマートホンの普及によるニーズの増加や、高画質化による差別化が進み、HDでの配信も増加している。クライアントの要望と視聴者の要望を同時に満たすため、HD収録とSD配信を同時に行う必要など、出力のマルチフォーマット化も顕著だ。VR-50HDはそういったHD対応の配信ニーズに応える製品である。

 また、現場のニーズは省力化という点も大きく取り上げられる。ライブ配信の現場では、カメラ、音声、照明、スイッチング、配信といった業務が発生するが、スイッチング担当が音声ミックスと配信を請け負うことが多い。業務内容が過密になればなるほどミスの可能性が高まるので、スイッチングや音声ミックスは操作の省力化がもとめられている。

 VR-50HDはこういった現場環境に合わせて企画されている。このため、インターネットライブ配信のみならず、収録用のAVミクサーとしても充分な機能を実現している。

マルチフォーマットAVミクサー機能

 VR-50HDは1080pまで対応するミクシングエンジンをもったビデオスイッチャーと、12ch入力のステレオオーディオミクサーを組み合わせた強力なAVミクサーである(写真2)。

■マルチフォーマットビデオスイッチャー
 VR-50HDは4レイヤーの映像合成に対応したスイッチャーである。4つのレイヤーは、A/Bミックスに対応したレイヤー、P in Pレイヤー、P in PとKey合成が可能なレイヤー、そして本体に読み込んだ静止画ファイルを合成できるStillレイヤーだ。これらのレイヤーは重ね順を変えることができる。

 A/Bミックスは選択した4つのソースからディゾルブ、ワイプ、カットのエフェクトが利用できる。VR-50HDはTバーをもたないため、トランジションの時間設定をするダイヤルがある。このダイヤルでトランジションタイムを0〜4秒まで設定できる。

 P in P、P in P/Key、Still Keyの各レイヤーはメニューから設定を変更できる。Keyはセルフキーを搭載し、抜き色の選択やレベル調整が可能である。

■豊富な入出力端子
 VR-50HDはSDI、HDMI、RGB(D-sub15ピン)、コンポジット(BNC)の各種映像入力を備えている。また、入力端子ごとにスケーラー機能を搭載している。これによって、現在目にするフォーマットのほとんどをサポートすることができる(写真3)。

・SDI端子(4入力2出力
 SDI端子は3G/HD/SDの3モードの入出力に対応する。しかも、3G-SDIについてはLevel A とLevel Bに対応しているので、多種多様なSDI機器を接続することが可能だ。

・HDMI端子(4入力3出力
 HDMI端子はHDMI Ver.1.3相当で、1080/60pまで対応する。変換すればDVI信号も入出力できるので、PCからのデジタル映像にも対応可能だ。また、入力できるエンベデッドオーディオは2chまでとなっている。

 VR-50HDはコピーガード信号のHDCP付きHDMI信号にも対応している。 HDCPをはずすことはできないが、iPadのHDMIから出力される1080/59.94pのHDCP付き映像信号を、他のビデオ信号とスイッチングや合成を行い、インターレース1080/59.94iに変換してHDMI端子から出力するような用途に使うことができる。イベントなどで、Blu-ray Discやゲーム機のHDMI映像をスイッチングして上映する際に便利である。

・RGB/コンポーネント(2入2出力
 RGB信号はもちろん、コンポーネントYPbPr信号に対応しているので、D-sub15ピン端子-BNCマルチ端子の変換ケーブルでコンポーネントビデオ信号を入出力することができる。

・コンポジット端子(2入力)
 RCA端子で入力を備えているので、NTSCやPAL信号の入力も可能である。

・音声(12入力2ステレオ出力)
 オーディオはXLT/TRAコンボジャック、ステレオTRS、RCAステレオの各種端子を搭載している。

■12chオーディオミクサー
 VR-50HDは12ch入力対応のオーディオミクサーを搭載している。このミクサーはローランドの音声技術を活かしたデジタルミクサーなので、EQやコンプレッサー、ディレーなどのデジタルエフェクトを使うことができる。各種エフェクトはチャンネルごとにある[SETUP]ボタンを押すことで、タッチモニターに表示して操作が可能である(図1)。

 入力音声のうち、5〜12chがステレオ入力となっているが、この音声をSDIないしHDMIの音声をアサインすることができる。カメラマイクの音声を利用したり、HDMIで接続した機器の音声をそのままデジタル入力してミックスできるので非常に便利である。

 また、映像と音声にそれぞれAUXバスをもち、任意の出力端子にアサインして出力することができる。現場の簡易PAを行いながら、収録用の音声もミックスしてしまうようなことが可能である。

7型タッチモニター

 各種操作は、パネル上のボタンと本体上部のタッチモニターで行える。映像のスイッチングはプレビュー画面を見ながらタッチ操作で行えるので、スイッチャーの操作に慣れていないような方にもわかりやすくなっている(写真4)。熟練したエンジニアが少ないような現場にも重宝するだろう。

  また、このモニターは7分割と4分割、読み込んだ静止画とPGM映像をボタンで切り替えて表示できる。モニターを複数置けないような現場でもこれ1台で対応できる。

USBから1080/60p出力

 VR-50HDのインターネットライブ配信のキーになる技術がUSB3.0/2.0出力である。USBで接続したPCからは、VR-50HDがUSBビデオカメラとして認識されるため、ドライバーなしで使用することができる。これはUSB Video Class/Audio Classという技術で、ローランドの長いオーディオインターフェースの経験から実現した機能である。このUSB端子からは、最大で1080/60p解像度の映像と、24ビット48kHzのリニアPCM音声が出力できる。最大で2Gbpsを超えるストリームとなるので、受け付けるPCは少ないものの(本稿執筆時の2013年9月現在)、今後のPCの発展により、じきに解消されるであろう。

 しかし、現状では接続できないPCが大多数を占めてしまうので、VR-50HDはUSB出力専用にスケーラーを搭載している。たとえばシステムのフォーマットを1080iに設定しても、USB出力は480pにダウンコンしてUSB2.0で出力するということが可能である。

USB出力を録画できる専用ソフトウェア「Video Capture for VR」

 VR-50HDのUSBビデオ出力は、ローランドのサイトより無償ダウンロードできる「Video Capture for VR」で録画することができる(図2)。録画フォーマットはH.264/AACでエンコードし、Windows版は .MP4、Mac OSX版は .MOVで保存する。簡易的な収録システムの構築にご利用いただきたい。

バックアップ可能な2系統電源

 VR-50HDは付属の専用ACアダプターとXLR4ピンの電源入力の2つを搭載している。この2つの電源は電源が入力されているほうに自動的に切り替わる仕組みになっており、バックアップができるようになっている。ホールや発電機などの不安定な電源環境のもとでも、XLR4ピン端子にバッテリーを装着することで、簡単に電源の2重化を行うことができる。

想定される用途

 VR-50HDはさまざまな用途を想定しているが、特に下記の用途を想定している。

■HDコンテンツの収録とインターネットライブ配信
 イベントごとの収録と配信のビデオスイッチングとオーディオのミクシング周りを実現する。HD-SDIで接続したENGカメラに加え、押さえで用意したHDMIカメラや、RGBで接続したPCなどのさまざまなソースをミックス。PAからの音声ラインと、配信用の現場音声をミックスしてSDIとUSBに別個で出力する。SDI出力にはレコーダー、USB出力は配信用PCに接続することができる。

 さまざまな入力フォーマットもこれ1台で対応できるので、面倒なコンバーターの接続や設定、音声のミクシングやディスプレーの設置も省けるので、搬入からセットアップ完了までの時間を大幅に短縮できる。また、コンパクトなので、オペレーションも省力化できる(図3)。

■映像送出・簡易音響
 VR-50HDの出力フォーマットはPC解像度、XGA(1024×768ピクセル)やWUXGA(1920×1200ピクセル)にも対応している。

 このため、RGBやHDMI端子で接続すれば、鮮明なRGB映像が得られる。このとき、SDIやコンポジット端子は使えないが、学会や企業プレゼンテーションの、いわゆる「パワーポイント出し」業務で威力を発揮する。VR-50HDはRGB入力を2つ搭載しているので、ミスが許されない企業プレゼンテーションでもバックアップPCを用意できる。

 また、デジタルオーディオミクサーも、簡易的であるがPAミクサーとして使用することもできる。音響、映像のオペレーションがこれ1台で完結するので、ホテルや会議室などでも便利に使うことができるだろう(図4)。


About 吉田拓也

ローランド株式会社 RSGカンパニー

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