キヤノンCN-E 35mm T1.5 L F〜EFシネマレンズの単焦点に35mm


 本稿は2013年11月22日発売の月刊ビデオα(2013年12月号)に掲載した記事を再編集したものです。内容に掲載当時の情報が含まれていますので、あらかじめ御了承ください。

 キヤノンEFシネマ単焦点レンズシリーズのラインナップに、「CN-E35㎜ T1.5 L F」が加わった。同シリーズは、すでに14㎜、24㎜、50㎜、85㎜、135㎜がラインナップされていたが、35㎜が追加され、ついに出揃ったなと感じる方も多いのではないだろうか。シリーズレンズなのでCN-E35㎜ T1.5 L Fの基本性能などは既存のレンズと同等となるはずだが、本稿では改めて性能を検証してみたい(写真1)

シネレンズとしての基本を備えた仕様

 CN-E35㎜ T1.5 L Fは名前のとおり、焦点距離が35㎜、最大口径比がT1.5のレンズである。数あるシネレンズの中でも35㎜でT1.5という開放値はかなり明るいレンズの部類に入る。シリーズ全体でみてもT1.3〜3.1なので明るい単焦点のシリーズであるともいえるだろう。

 フロント径は直径114㎜でシリーズ全体が完全に統一されている。質量は1.1㎏と軽量で、シリーズを通してほぼ同等の質量だといってもいいだろう。さらに、ギアの位置もシリーズ全体で完全に統一されているので、レンズ交換時やアクセサリー類の運用などでストレスを感じることがないように設計されている(写真2)

 シネレンズとしての基本的な要素をきちんと備えており、さらに35㎜フルサイズセンサーと4Kにも対応する。CN-E35㎜ T1.5 L Fはスペック的にみて優秀なシネレンズであるのは間違いない。

 絞り羽根の枚数は11枚となっている(写真3)。絞り羽根は枚数が多いほどボケの形が円に近づくため、ボケが奇麗だといわれている。また、絞り羽根は偶数枚より奇数枚のほうが、向かい合う光芒を打ち消し合うためにボケが柔らかくなるともいわれている。CN-E35㎜ T1.5 L Fは11枚と枚数も多く、なおかつ奇数であるため大変柔らかく、奇麗なボケを再現可能だということになる。

実践に即したテスト撮影で実力を検証

 本稿のような記事の作例としては、木漏れ日や夜景などを撮影し、絞り羽根の形が分かるようなボケをつくり出して撮影することが多い。だが、筆者は実際に撮影をしていて、そういった映像を撮ることはあまりない。そこで、今回はもう少し実践に即した形で撮影して検証してみることにした(写真4)

 フェンスに絡みついた何気ない植物を撮影したのだが、こういった映像でレンズのボケ味を評価しようとしても、その判断は難しいだろう。ただ、筆者はレンズとはスペックよりも印象だと思っている。このような映像を撮影したときに自分の抱いたイメージをいかに再現してくれるかどうか、それこそがレンズ選びの最も大事な点ではないだろうか。

 初秋の柔らかな日差しを浴びてフェンスに絡まった植物と、雲一つない秋晴れの空。そんな秋の穏やかな午後の雰囲気を筆者は切り取りたかった。CN-E35㎜ T1.5 L Fは自然で柔らかいボケとEFシネマレンズシリーズ特有のやや黄色みがかった発色で筆者のイメージどおりに再現してくれた(写真5)

 また、沈んでいく太陽と列車をフェンス越しに狙ってみた(写真6)。フォーカスはあえてフェンスにして画面のほとんどの部分をボケで表現してみた。逆光の厳しい条件ではあるが、その中でもコントラストを失わずに忠実に再現できている。柔らかいボケによって夕陽の暖かさも表現されている。それとは逆に、フォーカスを合わせているフェンスはキレのいいシャープな印象で、無機質で冷たい雰囲気をよく表している。

 この2つのショットを撮影した印象ではCN-E35㎜ T1.5 L Fは柔らかなボケとシャープなキレを表現できる、非常に優れた表現力をもったレンズであると筆者は感じた。

 海の風景を撮影したショットをみると、このレンズの優れたコントラスト特性をみることができる。
 まずは雲の微妙な濃淡と、そこから差し込む柔らかな光をドラマティックに表現できていることがわかるだろう。
 つぎに海に目を向けてみる。穏やかな風に揺れる水面はあまりコントラストのない状態であったCN-E35㎜ T1.5 L Fは正確に描き分け、波のつくり出すさまざまな水面の表情を筆者の印象どおりに再現している。
 また、遠景のビル群に目を向けてみるとCN-E35㎜ T1.5 L Fの解像力の高さも一見してわかると思う(写真7)

 解像力の高さは外苑の並木道のショットでもよくわかる(写真8)。雲の多い空だったので葉の緑は少しくすんだ印象だが、葉の1枚1枚を正確に再現できているといった印象だ。拡大するとよくわかるのだが、画面中央の絵画館の外壁も高い解像力で、その質感までも正確に表現できていた。

 また、テスト撮影日の日没直後ぐらいだっただろうか、レンズの階調表現を検証するのに良さそうな、繊細なグラデーションの空となってきた。夕陽の赤と夜の青が混ざり合う自然にしかつくり出せないグラデーションだ。CN-E35㎜ T1.5 L Fは、そのグラデーションを繊細に描き分けることができている。さらに下のほうに見えるかなりの低照度の木々をみれば暗部の階調もよく再現されているのがわかる(写真9)

 これらのテスト撮影の結果から判断すると、CN-E35㎜ T1.5 L Fは筆者のイメージした映像を的確に具現化してくれる性能をもったレンズである。

 キヤノンらしい優れたコーティング技術によって、高い透過率やゴースト、フレアーの低減でクリアな映像を生み出しており、これらの技術によって解像度に影響を与えることなく、高いコントラスト性能を維持している。つまり美しいボケ味を活かしつつも、シャープで立体感のある描写が可能になるのである。

EFシネマレンズの周辺光量補正

 2013年10月にCINEMA EOS SYSTEMのファームウェアが無償アップデートされ、これによってEOS C500、EOS C300、EOS C100、EOS- 1D Cの性能、利便性が向上した。

 そしてこのアップデートにより、周辺光量補正の機能がEFシネマレンズも対応となった。さっそく検証すべく周辺光量補正のメニューを呼び出してみたが、原稿執筆時点でCN-E35㎜ T1.5 L Fは発売前の製品であり、選択することができなかった。2014年にアップデートでの対応ということになっているようだ。

(編集部注)2014年2月25日にキヤノンから新ファームウェアの追加機能について発表が行われ、CN-E35㎜ T1.5 L Fの対応に関するアップデートは、EOS C500は6月、EOS C300は5月、EOS C100が6月、EOS-1D Cは3月に公開することを明らかにされた

 そこで今回は、CN-E50㎜ T1.3 L Fで検証を行った。CN-E50㎜ はT2.0だとほとんど周辺減光の現象が現れないが、レンズの開放値であるT1.3にするとさすがに周辺部に減光が現れる。波形モニターで確認しても両サイドがかなり垂れ下がっていることがハッキリと確認できる(写真10)

 この状態でメニューから周辺光量補正を呼び出しCN-E50㎜を選択し、補正をオンにする。波形モニターで確認すると垂れ下がっていた両サイドが持ち上がり、ほぼ奇麗な水平になった。ここまで補正されるとは予想を上回る結果だった(写真11)

 当たり前に聞こえるかもしれないが周辺光量補正は減光している周辺部を持ち上げて、減光していない部分に近づけている。これは光学的に暗くなってしまった部分を電気的な処理で明るくしているということだ。

 今回のテストではまったく分からなかったが、高めの感度設定で撮影している場合には、もしかしたらノイズ量の増加が目立ってしまうという可能性はあるのではないだろうか。このことに関しては今回のテストでは追求しきれなかったので、またつぎの機会にでもテストしてみたい。

 CN-E35㎜ T1.5 L Fの発売によって単焦点のシリーズレンズも出揃い、同シリーズのズームレンズと合わせて充実のレンズラインナップとなった。さらにCINEMA EOS SYSTEMが魅力的な製品になったのではないだろうか。

価格:¥44万(税別) 
発売:2013年12月上旬 
問い合わせ先:キヤノンお客様相談センターTEL050-555-90006 
URL:http://cweb.canon.jp/cinema-eos/


About 宮本 亘

株式会社 アップサイド 撮影部 所属

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