トキナー11-16mm T3 CINEMA LENS〜貴重な広角系ズームレンズ


動画撮影に特化したシネマ用広角系ズームレンズ

 トキナーのシネマ用ズームレンズ「11-16mm T3」は、コンシューマーモデルである「AT-X 116 PRO DX II 11-16 F2.8」をベースに、映画などの業務撮影用に仕立て直されたモデルである。
 光学系はまったく同じ設計であるが、完全マニュアル操作のアイリス/フォーカス/ズームリングを備えたシネマ仕様となり、それぞれのリングにモジュール0.8mmのギアが刻まれている。F2.8という理論上の開放F値は、実効値を表す「T」表示となり、全画角域において開放絞り値はT3.0である。

 試用したのはマイクロフォーサーズマウント仕様で、Blackmagic Cinema Camera MFTやBlackmagic Pocket Cinema Camera、パナソニックのAG-AF105AやLUMIX GH系などで使用することができる(写真1)
 画角を35mm判フルサイズで換算すると、AG-AF105Aで使用した場合、2倍の22-32mm相当、Blackmagic Pocket Cinema Cameraに取り付けた場合は、2.88倍となり、およそ32-46mm相当となる。

 写真用の「ズーム」レンズは、ズーミングに伴ってフォーカスの位置がずれる「バリフォーカル」レンズが主流であるというのが、半ば常識とされている。本製品の民生版モデルのAT-X 116 PRO DX II 11-16mm F2.8も、これに属すると思われるが、動画での使用を前提としたこのシネマレンズでは、全画角域でフォーカスの位置がずれないように、メーカーであらかじめ調整されている。したがって、ズームレンズではあるが、エンドユーザーがバックフォーカスを調整することはできない。

 余談であるが、AT-X 116 PRO DX II 11-16mm F2.8は、前のモデルであるAT-X 116 PRO DX 11-16mm F2.8から光学系が一新されていて、フォーカシングに伴う内部レンズ群の動きがまったく異なる。

粘りのある3つのリングで滑らかな操作が可能

 パナソニックのAG-AF105に取り付けてテストしてみた(写真2)。バックフォーカスの調整機能が備わっていないので心配はあったが、実際に使用してみると、開放絞りでズーミングをしても、フォーカスがずれるということはまったくなかった。

 それぞれのリングの操作感にはしっかりした粘りがあり、安心して動画撮影に専念することができる。付属のフォーカス/ズーム用ピンは使用しなかったが、充分に滑らかな操作が可能だった。

 フォーカスリングにはギアのほかに、手動フォーカス用のラバーリングも備わっている。ギアによるフォローフォーカスの操作性はもちろん、マニュアルフォーカスの操作性も良好であった(写真3)

 しかし、この重めの粘りに負けて、マイクロフォーサーズマウント部に遊びからくるガタつきが生じることもある。マウントの問題なので仕方がないのだが、レンズ側にもサポートロッドと連結させて固定するレンズサポートの装備が欲しい、と感じた。
 マウントの遊びによるガタつきに関しては、EFマウント仕様がどんな具合なのか、気になるところでもある。

貴重な広角系ズームレンズで良好な描写性能

 テスト撮影が夕闇迫る時間帯になってしまったのだが、T3.0の明るさも手伝って、絞り開放、シャッタースピード1/50秒、AG-AF105の標準感度であるISO400相当でも、良好な露光量で撮影することができた。夜間撮影での点光源の描写は大きな収差もなく良好な映像が得られた(写真4)

 

 写真5写真4の画角からズームインしたもので、動画で確認してもらえるとわかりやすいのだが、右側にあった街灯が画角から外れ、レンズ内でハレーションを発生させており、ズーミングでその挙動が変化するのがわかる。純正レンズフードではカバーしきれないハレーションはマットボックスや、手動でのハレ切りで対処する必要がある。

 撮影してみると、歪曲は極力抑えられ、最広角側でやや樽型、ズームアップに伴い、若干の糸巻き型に変化していく様子が確認できる。実際の使用においては、それは顕著に認識されるほどのものでもないので、許容範囲であると思われる(写真6、7)

  また、フォーカス移動に伴う画角変化もほとんどないことも、このレンズの特筆すべき長所である(写真8、9)

 

 ズーム比は2倍もないので、劇的な画角変化とは言い難いが、マイクロフォーサーズのカメラでは、広角系の動画用ズームレンズは貴重な存在である。同トキナー製シネマ用レンズでもう一つ上の画角域をもつ、ズームレンズ「16-28mm T3」と組み合わせての使用が理想的だろう。

 11-16mm T3は、フルサイズより小型のセンサーを搭載するカメラでも広い画角を得られる数少ない動画用レンズとして、需要は充分にあると感じた。

 特にマイクロフォーサーズマウントの場合、AG-AF105だけではなく、Blackmagic Cinema Camera MFTやBlackmagic Pocket Cinema Cameraなど、センサーサイズが小さいカメラほど、広角レンズに対する需要は切実である。Blackmagic Pocket Cinema Cameraの場合、イメージサークルの小ささも手伝って、Cマウントの単玉やスーパー16mmカメラ用のズームレンズで使えるものがいくつかあるが、Blackmagic Cinema Cameraではそれも絶望的で、安価で使いやすい動画用ズームレンズを望む声は多く聞かれる。

 シネマ仕様となったことで、価格はコンシューマーモデルのおよそ倍となるようだが、同シリーズの16-28mm T3.0と併用して、映画制作に活用していきたいレンズである。

焦点距離:11〜16mm
絞り:T3-T22 (F2.8-22)
ズーム比:1.455倍
レンズ構成:11群13枚
最短撮影距離:0.35m(1.15ft)
マクロ最大倍率:1:11.6
ズーム方式:回転式ズーム
絞り羽根枚数:9 枚
フィルター取付径:77 mm
全長:97.9mm(EF)、120.7mm(MFT)
最大径:84mm
質量:690g(EF)、780g(MFT)

価格:¥18万8000(税別)
発売:2014年4月4日
問い合わせ先:ケンコープロフェショナルイメージング TEL 03-5988-7358
URLhttp://www.kenko-pi.co.jp/


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