キヤノンDP-V3010〜4Kデジタルシネマ対応30型LCDディスプレー


 先日、久しぶりに家電量販店のテレビ売り場に立ち寄る機会があった。ちょうどオリンピックの時期ということもあったのだろうか、売り場の一番良い場所は、ほとんど4Kテレビが埋め尽くしていた。いつの間にか民生機はこんなにも4Kへシフトしているのかと驚いてしまった。

 筆者の仕事環境でも徐々に4Kでの撮影は増えてきている。しかし、4Kモニターを使用してモニタリングするということは、ほとんどないのが現状だ。理由にはさまざまなことがあると思われるが、適した4Kモニターがないというのも、1つの意見としてあるのかもしれない。

 そこで、本稿で取り上げる「DP-V3010」のような4Kディスプレーの登場となるわけだが、同製品は昨年のInter BEEでも大きく注目されていたので、気になっている方も多いのではないだろうか。そのスペックの高さと、価格の高さからもキヤノンの本気度が感じられるDP-V3010。デジタルシネマ業界に本格参入して以来、カメラ、レンズと4K対応の製品をリリースしてきたキヤノンのつぎなる4K対応製品DP-V3010とは、果たしてどんなモニターなのか、さっそくレポートしていきたい。

4Kデジタルシネマを強く意識したディスプレー

 DP-V3010は4Kデジタルシネマに対応した30型のIPS液晶ディスプレーである(写真1)。独自設計のRGB LEDバックライトやIPS液晶パネルによって、DCIを初め、ITU-R BT.709、EBU、SMPTE-C、Adobe RGBの色域にも対応する。
 解像度はDCI規格を満たす10.5Mピクセル(4096×2560)で、4Kコンテンツをドット・バイ・ドットで表示することが可能。コントラスト比は2000 : 1以上と、こちらもDCI規格を満たしている。

 また、画面のアスペクト比が16 : 10のため、PCとの親和性が高く、CGやVFX制作にも適している。さらにDP-V3010本体と付属のディスプレーコントローラーだけで、ASC CDLの作成が可能だ。
 簡単な操作で1D/3D-LUTのインポート、エクスポートもできるので、映画制作のフローにおいて現場とポスプロ、異なるアプリケーション間でも、同じパラメーターでの色再現をすることが可能になっている。正に4Kデジタルシネマを強く意識した特長をもつ製品だということがわかる。

 DP-V3010の外観に目を移すと、30型4Kモニターにしては以外と小さいという印象だ。しかし、質量は24kgと決して軽いとはいえない。本体の形状はとてもシンプルで余分な凹凸がない、フラットなスタイルだ。壁掛けにも対応していることから、背面もほぼフラットでI/Oパネルは左右の側面に集中している。

 インターフェースとしては、入力が3G/HD-SDIが8つ(2系統)、DisplayPortが4つ(1系統)、出力が3G/HD-SDIが8つ(パススルー2系統)となっており、それ以外にLANとUSBのポートが各一で用意されている。電源はACのみで、背面下部に入力端子があり、これもケーブルが飛び出さないような配置だ。

 また、DP-V3010にはモニター本体とは別に前述のディスプレーコントローラーが同梱されており、本体とのセットで構成されている(写真2)。本体とコントローラーはLANケーブルで接続し、コントローラー用に別途AC電源も必要となっている。

 EOS C500とKi Pro Quadでテスト素材を撮影

 今回のレポートでは、DP-V3010と共にEOS C500とKi Pro Quadもお借りした。自分の目で見たものが、どのようにディスプレー上で再現されるのかを見たかったので、テスト素材を自分で撮影するところから始めたかった(写真3、4)
 収録のセッティングとしては、EOS C500は4K(4096/3840)のRAWモードで撮影し、Ki Pro QuadはEOS C500モードに設定、1D LUTは使用せずProRes 4444でダイレクトに記録した。

 カメラのホワイトバランスは現場の環境光に合わせ、絞りの設定はダイナミックレンジを最大限活かすような絞りとした。また、レンズの特性などの影響がでないように、なるべくT8以上のT値を確保し、ハレーション、フレアーなどにも注意を払って撮影を行った。

 CINEMA EOS SYSTEMのCanon Logに対応

 いよいよ「DP-V3010」を実際に試してみる。説明書によると約10分のウォームアップが必要と書いてあるので、まず電源のスイッチを入れる。画面上に数字が現れ、カウントダウンが始まる。最後にCanonのロゴが現れて10秒ほどで立ち上がる。 
 つぎにKi Pro Quadと4本の同軸ケーブルで接続する(写真5)。DP-V3010側の設定としては4本の3G-SDIによる4Kの信号を受けられるように、各項目を設定してやればよい。「入力選択」を3G-SDI(写真6)、「入力信号選択」を4K Inputと設定する(写真7)。これで映像としてはきちんと表示されるはずだ。

 しかし、このままでは4K RAWモードで撮影した映像のままである。そんなとき、DP-V3010には便利な機能がある。「CINEMA EOS SYSTEMのカメラで撮影した映像を表示するときに最適なモード」と説明書に記されているモードだ。

 「ピクチャーモード」と「ガンマ」という項目の中にCanon Logという選択肢があるので、それを選択する(写真8、9)。映像としては一目瞭然で、いわゆる眠い画といわれる状態から適度なコントラストと色彩を取り戻した鮮やかな4K映像となった。いわゆるCanon Log用のLUTが用意されていると考えてよいのだろう(写真10、11)

 高精細だが柔らかさも感じる映像再現

 肝心の画質についてだが、今回のテストは他のモニターと比較しているわけではないので、具体的に述べにくいのが正直なところである。しかし、筆者が「DP-V3010」に対して大変良い印象をもったということは間違いない。

 DP-V3010は過度な味付けはせず、素材そのものを極めて忠実でナチュラルに再現できるモニターだという印象だ。もちろん、その高い解像度と高コントラストによって4Kらしい高精細さは感じるのだが、映像の印象としては柔らかさがあるように感じる(写真12)

 4Kモニターの中には、高精細さを演出しようと過度にシャープネスが立ちすぎてしまっているようなモニターもあるのだが、DP-V3010にそういったところは、まったくない。シャープネスの処理が上手いのだろうか、柔らかさの中に芯があるような、そんな印象だ。ちなみに、画質調整のシャープネスを最大限の値にしてもザラザラしたような固い画にはならず、スッキリとしたシャープネスを保っていた。

「黒浮き」をほとんど感じない黒の表現

 さらに、筆者が気に入ったのは黒の表現である。液晶モニターの弱点であるはずの、黒の表現が大変よくできている。

 黒の表現が良いモニターといえば、有機ELモニターを思い浮かべる方が多いだろう。しかし、液晶モニターのバックライトに照らされた黒に慣れてしまっていて、有機ELの黒が黒すぎて見えないと感じるのは筆者だけであろうか。安定した環境の中で使用する有機ELモニターは大変素晴らしいモニターだと思うが、ちょっと環境光が変化することで、途端に黒の見極めが難しくなる。もちろん調整で対応できるはずなのだが、慣れが必要なモニターということもいえるだろう。

 DP-V3010の黒は、かなりくらい場所で見てもバックライトに照らされている感じがしない。いわゆる「黒浮き」をほとんど感じないのである。それでいて明るい環境のなかでも黒がきちんと分離しているのがよくわかるのだ(写真13)

 ウォームアップのために映像信号を入力していない状態のままDP-V3010の電源を入れたときのことだ。電源投入の前後で、画面の黒にほとんど変化が見られないのである(写真14、15)。変わったことと言えば、橙から緑に変わったパイロットランプぐらいであった。筆者の家の液晶テレビなどは黒画面のままでも電源が入っているかどうかは一目で分かる。

 この黒の表現にはローカルディミングというバックライトをコントロールする技術が大きく作用しているようである。いままでのバックライトは、画面全体を均一に照らしていたが、ローカルディミングでは映像の明るさに応じてバックライトをコントロールする。映像の暗い部分はバックライトを暗くして「黒浮き」を押さえ、明るい部分はより明るくする。これにより高いコントラストを実現している。

 民生機でも上位機種には搭載されているものもあるようだが、この技術は加減が難しいらしく、やり過ぎると不自然になったり、暗部にムラができてしまったりするらしい。DP-V3010を見る限り、不自然さや輝度ムラなどはまったく感じなかった。DP-V3010だけの独自の技術もあるのではないだろうか。実に上手くコントロールされているようである。

 ディスプレーコントローラーの操作性とASC CDL作成

 DP-V3010の操作は主にディスプレーコントローラーで行う(写真16)。コントローラーのMENUボタンでメニューを呼び出し、矢印ボタンで各項目に入っていくというお馴染みのインターフェースである(写真17)

 モニターの基本的な調整であるブライトやコントラストなどの項目は、コントローラーに専用のツマミが割り当てられているので直感的に操作ができる。ツマミを操作すると画面上に各項目のパラメーターが表示され、細かな数値も出るので解りやすい(写真18)

 そして、このツマミが切り替えスイッチによってASC CDLを調整するツマミにもなる。ASC CDLとは米国撮影監督協会(American Society of Cinematographers)によって作成、推奨されているCDL(Color Decision List)で、現在では多くのカラーコレクショツールがサポートしている。モニタリングしながらディスプレーコントローラーの4つのツマミとR、G、Bの3つのボタンでASC CDLを作成する。作成後はUSBメモリーなどに出力が可能だ。

 キヤノンのオリジナルの補完処理シェープトレース

 そのほかで気になった機能では「スケーリング法」という項目の中にあるシェープトレースという機能だ。DP-V3010はHDや2K映像を入力した場合に、映像を拡大表示することができる。拡大表示した場合の画像の補完処理の方法に3つの選択肢がある。その1つがキヤノンのオリジナルの補完処理方法であるシェープトレースである。

 一般的なバイキュービックやニアレストネイバーと比較すると、とてもシャープでありながらジャギーが目立ちにくく滑らかに再現できている(写真19、20、21)。もしこの機能を使うのであれば、筆者は間違いなくシェープトレースを選択するだろう。 

 DP-V3010は間違いなく良い4Kディスプレーである。モニターとしての基本的なスペックはとても高い。付加価値の高い先進的な機能も搭載されている。

 しかし、1つだけ疑問に思うことがある。DP-V3010のメインとなるターゲットはどこなのだろう。ポスプロでのマスターモニターだとしたら、充分な能力があるのは間違いないのだが、ASC CDLの作成やLUTのインポートなど、モニター上だけで行う機能の使用用途はなんなのだろう。撮影現場での運用を想定しているのであれば、そういった機能に関しては納得できるのだが、モニターのサイズ、重量、電源などの点には疑問が残るのである。

 DP-V3010は素晴らしい4Kディスプレーなので、サイズや機能のバリエーションなどを増やして、ターゲットをピンポイントに絞った商品を、早くシリーズ展開してほしい。

価格:オープン(市場推定価格¥300万前後) 
発売:2014年1月28日 
問い合わせ先:キヤノンお客様相談センターTEL050-555-90006 
URL:http://cweb.canon.jp/v-display/lineup/dp-v3010/

後日発売予定の電子書籍版「月刊ビデオα」では、ASC CDLの作成など、DP-V3010のさらに詳しい検証内容を、テストレポートとして掲載予定です。


About 宮本 亘

株式会社 アップサイド 撮影部 所属

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