爺の遺言〜惚れて使えばアバタもエクボ ・第6回


キヤノン スクーピック16MN

はじめに

 アリフレックスのA、ボレックス、ベルハウエルのBの次は、Cのキャノンです。

 テレビニュースのフィルム取材が活発になるに連れて、撮影経験の少ない記者でも扱える16mmカメラが、NHKを初め、民法各社からも求められました。この需要に応える目的で、国産の16mmカメラ「キャノン スクーピック16(CANON SCOOPIC 16)」が1965年(昭和40年)6月、¥29万5000で発売されました。フィルムの自動装填とコマ撮り(ボレックスと同じ)、露出計を内蔵して自動露出が可能になり、ズームレンズが固定されて、レンズ交換の必要がなくなりました。また、専用バッテリーパックが内蔵され、カメラ単体で100フィートの連続撮影ができるようになりました。その後、改良が施されて磁気ストライプ付きのリバーサルフィルムを使う同時録音機「サウンド スクーピック」や、400フィートマガジンが装着できるタイプも発売されました。

 16mmフィルムトライアルルーム(以下、ルーム)に動態保存してあるのは、16MN(No.37915)型です(写真1)。1974年(昭和49年)6月の発売で、¥68万5000でした。16型との違いは、ゼラチンフィルタースロット、リモートコントロール機能、24コマが確実に固定できるロックが付き、ズームレンズにマクロ機構が組み込まれたことです。コマ撮り機能は省かれました。重さはバッテリーパックと100フィートのフィルムを含んで、約4kg。大きさの割に軽く感じます。なお、このスクーピックは、株式会社金山プロダクション代表取締役 金山芳和(かなやま・よしかず)さんから寄贈されました。

外観

 ほとんど黒1色で塗装されています。正面には、12.5~75mm F1.8のズームレンズ(マクロ機構付)と露出計の受光部(マニュアル絞り機構付)が取り付けられています(写真2、3)。

 後部はアイピース、視度調整リング、アイピースシャッター(写真4)、フィルム残フィートカウンター(写真5)、バッテリーチェッカー(写真6)、リモコンを兼ねた外部電源コネクター(写真7)。後部から見て、左側面にはファインダーを兼ねた蓋(ボレックスと同じタイプ/写真8)。

 右側面(写真9)には、コマ速度ダイヤル、フィルム感度設定ダイヤル。オート、マニュアル露出切り替えレバー(写真10)、ゼラチンフィルタースロット(写真11)、フィルム弛み取りダイヤル、グリップにはシャッターボタン(写真12)が取り付けてあります。

 上面は専用バッテリー収納部で(写真13)、下面には大小の三脚ネジがあります。総じて操作に迷う機構はなく、非常にシンプルです。

内部構造

 蓋を開けると、フィルム装填経路が自動的に閉じます。底部のカッターでフィルムの先端をカットして、差込口に挿入して、シャッターを押せば自動的に装填されます(写真14、15)。

 蓋を閉めると、フィルム装填経路は自動的に開放になり、ループが形成されます(写真16)。やたらに「自動的」という書き方になりますが、これがスクーピックの最大の特徴です。このメカニズムはボレックスを研究し、さらに簡略化したものと想像されます(写真17)。

 露光中のフィルムを固定するレジストレーションピンはありません。プレッシャープレートとフィルム掻き落しピンがあるだけでフィルモ70DRと同様です。露出計とズームを加え、ボレックスとフィルモ、それぞれの特長を取り入れた折衷型なのでしょう。

ファインダー

 ボレックスと同じハーフミラーを使ったレフレックスです。そのため、レンズの開放F値が1.8に対して、実効絞りのT値は2.5に1絞り暗くなっています。このことは、ファインダーとフィルム面に50%ずつ振り分けられていることを示していますから、ファインダー像は、絞り開放ではボレックスより若干明るくなります。また、マニュアルで絞るとアリフレックス、ボレックスのようにファインダーは暗くなりますが、オート露出の場合、シャッターを切るまで暗くなりませんから、直前まで明るいファインダーで被写体を観察することができます。[2014年6月24日訂正]

撮影

 露出計のフィルム感度を合わせ、オートかマニュアルで絞りを設定し、ズーム75mm側でピントを合わせてから、必要な画面サイズを決定してシャッターを押す、この手順だけです。放送取材を志すスタッフなら、数時間の訓練で扱えるようになるでしょう。

維持

 スチールカメラや家電製品は、メーカーにもよりますが、生産が終了して5年から10年で部品を製造保有しなくなります。その後、在庫部品が無くなると、メーカーでは修理を受け付けなくなります。特に、その製品専用の部品や電子部品は修理の弱点です。

 アナログのギアやカムは、部品を1から作る能力がある熟練した職人によって、メーカー以外でも修理できますが、スクーピックのように露出計や自動露出の電子部品が内蔵されたカメラの場合は「そこが壊れたときにカメラの寿命が尽きた」ことになってしまいます。

 また、専用の12V DCニッカドバッテリーも古くなれば漏液して、バッテリーパックの金属が錆びてしまい、交換が必要になります。バッテリーパックの電池を入れ替えて再生しますが、金属のサビは磨いても再発しますし、ニッカドバッテリーが将来いつまで生産されるか予測できない状態なので、根本的な解決を目指しました。

 リモコンのソケットは、外部から12V DCを供給する機能ももっています。そこで、リモコンの動作は放棄して、汎用の「タジミ」の2ピンコネクターを取り付け、どんな12Vバッテリーでも使えるように改造しました。現在では、バッテリー収納部の中に小型の12Vバッテリーを仕込むことも問題なくできるようになりました。そんな処置で、1974年の発売以来、40年後の現在でも完全動作します。露出計の表示も単独露出計の計測値とほとんど違いません。

 スクーピックも報道用で鍛えられたタフなカメラで、「日本のメーカーが取材用の16mmカメラをつくるこうなる」という見本です。現在のデジタルシネマカメラ「EOS C300やC500もスクーピックの延長線上にある」といえましょう。

キヤノン スクーピックのエピソード

 最後にスクーピックのエピソードを少々。1968年に公開された、スティーブ マックィーンとフェイ ダナウエイが競演した映画「華麗なる賭け」に、ポロを楽しむ銀行強盗犯人マックィーンを、保険会社の調査員ダナウエイがキヤノン スクーピックで撮影するシーンがあります。これと前後して、富士フイルムから発売されていた「シングル8」のコマーシャルが「扇千景」(おおぎ ちかげ)さんの「私にも写せます」という名セリフととも一世を風靡していました。

 さしずめ、キヤノンとすれば「フェイちゃんでも写せます」と、してやったりの1カットだったのでしょう。ちなみに、同1968年には刑事映画「ブリット」、1972年に逃亡劇「ゲッタウエィ」がマックィーン主演で公開されています。当時の世相とマックィーンの人気がよく理解できる3本です。

 次回は「イーストマン コダック」(EASTMAN KODAK)社のアマチュア向け16mmカメラ「シネ コダック(CINE KODAK)モデルK」と「K100」です。どうぞお楽しみに!

※1 「華麗なる賭け」のカメラはスクーピックと同型の8mm(スーパー8)DS-8ではないかとのご指摘をいただきました。16mmスクーピックの初期型も白いボディで同じ形をしていますので、もしかすると筆者が混同しているかもしれません。もし情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、以下のBBSまで情報提供いただけますと幸いです。[2014年6月24日]

 

※2 「華麗なる賭け」で、フェイ ダナウエイが回しているカメラは、さまざまな情報をいただき、キャノン スクーピック16の初期型と判明しました。情報をいただきました皆様に厚く御礼を申し上げます。
 efunonさんから、スクーピック16とDS-8の比較写真を提供していただきました。HさんはDVDで検証していただき、スクーピック16と確認していただきました。爺も、インターネットの写真を見比べて確認しました。また、撮影したフィルムを映写しているシーンがありますが、16mm映写機が写っています。
 これらの事実からフェイちゃんが回しているのは、スクーピック16で間違いありません。こんな調べ物は、爺にとって楽しい作業です。ご遠慮なくご指摘をお願いいたします。[2014年7月2日]

 


荒木 泰晴

About 荒木 泰晴

 1948年9月30日生まれ。株式会社バンリ代表取締役を務める映像制作プロデューサー。16mmフィルム トライアル ルーム代表ほか、日本映画テレビ技術協会評議員も務める。東京綜合写真専門学校報道写真科卒。つくば国際科学技術博覧会「EXPO’85」を初め、数多くの博覧会、科学館、展示館などの大型映像を手掛ける。近年では自主制作「オーロラ4K 3D取材」において、カメラ間隔30mでのオーロラ3D撮影実証テストなども行う。

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