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取材・文=秋山 謙一(イメージアイ)
Adobe Systemsシニアディレクター サイモン ヘイハースト氏に聞く
CinemaDNG
~カメラやイメージセンサーに依存しないオープンフォーマット
2008 NAB ShowのAdobeブースで1日1回行われたテクノロジープレビューにおいて、CinemaDNGのコンセプトと策定に向けたイニシアティブの設立が明らかにされた
Adobe Systemsは、4月に米国・ラスベガスで開催された2008 NAB Showにおいて、オープンかつ公開資料に基づくファイルフォーマット"CinemaDNG"の規格策定を推進すると公表した。同規格は、Panavision、Silicon Imaging、Dalsa、Weisscam、ARRIなどの主要な映画用カメラメーカー、IridasとThe Foundryなどのソフトウェアベンダー、コーデックプロバイダーのCineFormと連携して策定が進められており、イメージデータを変更することなく、強力なメタデータ機能をサポートすることによって、デジタルシネマ制作のワークフローを改善するオープンなフォーマットだ。
しかし、CinemaDNG策定に向けた取り組みを明らかにしたNAB Showのテクノロジープレビューにおいては、そのコンセプトだけが紹介され、具体的な詳細については明らかにされなかった。
Adobe Systemsでシニアディレクターを務めるサイモン ヘイハースト氏が、6月に来日したので、CinemaDNGの現状についてインタビューした。
SGIのOpen GLの取り組みに倣ったCinemaDNG策定
- NAB Showで明らかにしたCinemaDNGですが、規格化のきっかけについてお聞かせください
Adobe Systemsシニアディレクター サイモン ヘイハースト氏
ビデオテープで収録する場合、編集にあたっては中間的なメディアコーデックに変換するということが行われてきました。そして、テープレスのワークフローでは、コーデックへの変換をカメラ側で行い、イメージセンサーで捉えた映像を圧縮したうえで、プロフェッショナルディスクやS×Sカード、P2カードに記録しています。編集の際に、ここから再度変換することは、さらにピクセル情報を失うことにもなるので、テープレスワークフローにおいてはコーデックのアンラップやトランスコードを行わずにデータを扱うことを、当社は基本姿勢としています。
カメラメーカーはレンズやボディーでの競争もありますが、カメラの開発で一番の差別化要因はイメージセンサーでしょう。そして、イメージセンサーから得られるRAWデータを最終的な記録フォーマットに変換する部分が差別化の要因であるならば、その部分は、常に大きく変化していく可能性をもっている、ということでもあります。D-5やMPEG2などのフォーマットであれば規格化されているので、メーカーが違っても、また10年後であっても扱うことはできます。しかし、カメラごとに異なる、変化していくイメージセンサーに合わせて、最終的な記録フォーマットへ変換していかなければならない労力は、カメラメーカーにとって大変なものです。イメージセンサーのRAWイメージを出力するにしても、数多くのツールにどう対応させるのか、という部分に課題が出てしまいます。また、ツールベンダーにとっても、カメラごとに異なるイメージセンサーのフォーマットをサポートするのでは大変です。
こうした複雑な問題は、今後の革新性を阻害してしまうことにもつながりかねません。こう考えると、イメージセンサーのRAWデータを扱っていくときの課題も見えてきます。これは、デジタルスチルカメラのDNG規格と基本的に同じ考え方です。
- CinemaDNGは、デジタルスチルカメラ用のDNG規格をベースにしているということでしたが
デジタルスチルカメラ用のDNG規格は、(デジタルスチルカメラの)イメージセンサーのデータの解釈について、共通化する方法を策定していくという取り組みで、DNG、すなわちDigital Negativeとしてデジタルにおけるネガを作成するというものでした。
しかし、デジタルスチルカメラでは、すでにRAWデータが存在しており、その問題点を把握してからDNGを規格化しようとした背景があります。そのため、DNG標準化はかなり困難を極めました。このデジタルスチルカメラでの教訓から、ビデオに関しては、RAWデータが使われるようになる前に、数十存在するイメージセンサーのデータを活かし、長期間にわたって共通解釈できるような規格が必要だということは分かっていました。
ここで、判断は2つに分かれます。1つは規格化してから各社での採用を呼びかけるのか、もう1つはそれ以外の道を探るのかです。これまでの経験から、勝手に規格をつくって、業界標準として各社に採用を求めることは、技術的に業界標準になり得るものがあったとしても難しいとわかっていました。
標準化に関して、より良いモデルはOpen GLの取り組みでした。技術の土台部分が一般に理解されていたこと、牽引していく会社がSilicon Graphicsの1社であったこと、そのSilicon Graphicsが他社との協働で策定を進めていったということです。これに倣って、2007年に各社を訪問し、標準化に向けた協働での策定について提案し、今回CinemaDNGイニシアティブとして立ち上げることになりました。
- CinemaDNGを使うことのメリットは、なんでしょうか
CinemaDNGでは、2つのことを実現しようと考えています。1つは、イメージセンサー自体の選択はカメラメーカー側の判断に委ね、イメージセンサーの出力における解釈は標準化していくというものです。こうすれば、カメラメーカーがイメージセンサー部分での差別化を図りながらも、標準化した出力にすることで、ツールベンダー側ではカメラコーデックに縛られずに一貫性をもたせることが可能となります。
そしてもう1つが、デジタルシネマワークフローの改善です。たとえば、ディズニーでは15~20年ごとに、改めてフィルムをつくり直していますが、これはオリジナルのプレートが残されているからこそ可能なワークフローです。たしかにフィルムは劣化してしまいますが、原色に忠実な高解像度のスキャニングデータが残されているわけです。また、アーカイブとしてのデータはフル解像度で残しつつ、編集時には解像度を抑えたプロキシ映像を利用することで効率化しています。こうしたワークフローと同様に、たとえば、4kのイメージセンサーの出力は1秒当たり2~3Gバイトにもなるので、編集時に解像度を落とすのは当然のことともいえます。
イメージセンサーのデータをRAWファイルで残し、カラー情報をメタデータとして残しておくと、革新的なワークフローが可能になります。RAWファイルを変換してどう扱おうとも、カラー情報はメタデータとして残っているので失われることがない、ということになるからです。ここが、CinemaDNGのコアともいえるべき考え方です。CinemaDNGを使うことにより、後処理での柔軟性が高くなります。編集時は解像度を落とすといった、より実務的な方法が可能になるので、帯域幅も1/10~1/15で充分なものを得ることが可能です。

CinemaDNGを使用したワークフローのコンセプト。編集時は軽いプロキシデータやインターメディエイトデータを使用し、最終段階でCinemaDNGを使用して仕上げる
より具体的な詳細は来年のNAB Showで公開予定
- NAB Showで発表したイニシアティブには、RED Digital Cinemaや、ソニー、松下電器産業といったメーカーが含まれていませんでした
いずれの会社にも、すでに提案をしています。RED Digital Cinemaについては、NAB Show出展の忙しさのために加わってもらえませんでしたが、だれかにコメントを求められれば『CinemaDNGについては良い方向性である』と答えるという、基本的な了解はしてもらっています。ただし、正式な形で取り組んでいると表明する時間的な余裕が現時点ではないということでした。
ソニーや松下電器産業については、組織が大きいだけに、正式な意思決定に至るまでの過程に多くの人が関わるため、非常に時間がかかります。すでに昨年の段階から提案をし、この規格に対してメリットを見いだしてはもらっていますが、それを採用していくかどうかの決定はいまだなされていないという状況です。今後も引き続きテクニカルチームの人たちとディスカッションさせてもらい、こちらの状況についても説明させてもらうつもりですが、メンバーにいつ加わるのかといったことについては現在のところわかりません
- ファイル構造については、RAWデータを扱うのですか、それともロスレスのデータを扱うのですか
そこについては、これからの判断を必要としているところです。やはり、RAWデータを扱わねばならないということになると、2~3Gバイト/秒のデータとなり、だれもが使えるものではなくなってしまいます。そこで、CinemaDNGでは、イメージセンサーのデータに対して圧縮をかける場合であっても、元に戻せない非可逆圧縮の手法は採らないということを前提にしています。ファイル構造の目標としては、イメージセンサーごとに異なるものではなく、より一般的なものを考えています。現在、各社のRAWデータを見ても、すべてのツールベンダーが扱いやすいものとはなっていません。デジタルスチルカメラで、メーカーが変わっても、イメージセンサーが変わっても、同じようにRAWデータを扱えるようにしてきたDNGファイルの利点は、デジタルシネマにおいても活かせるものと考えています。
- ファイル構造としては、カメラコーデックのラッパーに採用されているMXFを使いながら、RAWファイルやメタデータを扱っていく方法もあったと思うのですが
MXFが使えないラッパーであるとは思っていません。カメラ情報だけでなく撮影時の環境など、より多くの情報を格納できる可能性があると考えています。つまり、カメラメーカーが、CinemaDNGをラッパーに包んで扱うことは可能ということです。しかし、CinemaDNGで一番大変なところは、イメージセンサーのデータと、それに伴うメタデータというエッセンス部分の記述であり、そのエッセンス部分をラッパーに依存してしまうということは、まったく復旧のできないエッセンス部分を構築する可能性が生じ、危険なことと考えています。
- NAB Show以降、CinemaDNG策定への取り組み状況はいかがでしょうか
NAB Showでは、CinemaDNGを1年半以内に提案するとしましたが、現時点でフォーマットに関して、具体的に明らかにできる情報はありません。現在は、カメラメーカー、ソフトウェアベンダーなどが、RAWワークフローの問題点を認識し、今後、解決しなければならないというコンセンサスを得ているという段階です。
一般的な標準化に向けた取り組みは、どうしてもスローな動きになりがちですが、Adobeが率先して開発をすることに対しては賛同してもらっています。来年のNAB Showでは、カメラとの連携や編集面でのより具体的な方法を示し、ユーザーのメリットもより明らかにできるのではないかと思っています。
イメージセンサーで捉えたRAWデータを扱いながらも、ファイルベースワークフローにマッチできるようにメタデータの取り扱いも可能にしていくCinemaDNG。現在、ノンリニア編集では、イメージセンサーからの情報を元に画像処理と圧縮を経たカメラコーデックを使い、さらに編集時に画像処理を行うことで作品を生み出している。CinemaDNG規格が確定することにより、RAWデータの生映像を扱うための撮影方法や編集時の画像処理など、映像制作ワークフローを変える必要が生じるかもしれないが、RAWデータを元にした、より高品質な映像を確実に手にすることができそうだ。






